2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

移動・ネットワーク領域
ユニットC12:身体の移動に用いられる設備など

山村 真一

インダストリアルデザイナー


2008年度「身体の移動に用いられる機器・設備」ユニットの特徴は、年々高まりつつある地球規模の環境問題や、急騰する資源原料価格、さらにピーク時には1ℓ200円に届く気配のガソリン価格などの社会背景も作用し、従来の「自転車、バイク、乗用車および関連商品」に加え、近未来の移動システムが数多く応募された。代表的なものとしては、北海道旅客鉄道の「DMV」、本田技研工業の「FCXクラリティ」、トヨタ自動車の「ウィングレット」「モビロ」やオリックス自動車のカーシェアリングシステム「プチレンタ」などがある。こうした例年以上に幅の広い、提案性に富む領域では、そのシステムや乗り物や部品が近未来の社会の中でどう役に立ち、どのような幸せを社会に提供することができるだろうか?また地球規模の視点に立つサステナビリティに適合してゆく可能性を持っているか?さらに、近未来の生活者のために最良の移動の形態はどのように変化し、そのシステムや乗り物が果たすべき位置づけはどこにあるのか?といった、これまでにも増して本質的な論点を軸に審査が進められた。

このユニットからは、2点のベスト15と1点のサステナブルデザイン賞の計3点の経済産業大臣賞が選ばれた。ベスト15となった本田技研工業の「FCXクラリティ」は、水素をエネルギー源とした燃料電池によるCO2.NOX.ゼロを目指す最先端の乗用車である。この車は、自車内に水素と酸素を反応させる小さな発電所を持ち、その電気でのモーター駆動によりクリーンな走りを提供してくれるのだが、エネルギー効率はハイブリッド車の2倍で、パワフルな走りや静かな乗り心地は驚くばかりである。さらに独自のソーラー水素ステーション等、インフラシステムの開発姿勢にも高い評価が集まった。もう一つベスト15となったトヨタ自動車のプレミアムコンパクト「iQ」は、欧州市場を狙った全長3m以下のミニサイズの乗用車である。従来技術のリミット設計から生まれた充分な4人乗りスペースや驚くべき低燃費性、さらに後突用を含む9つのエアバックなど、「小さくても安全」というコンセプトは高く評価された。本田技研工業の水素燃料電池車「FCXクラリティ」を、レボリューション(REVOLUTION)、革命的デザインとするならば、このトヨタ自動車のプレミアムコンパクト「iQ」は、究極のエボリューション(EVOLUTION)、進化的デザインといえるだろう。今年度話題の新賞であるサステナブルデザイン賞には、北海道旅客鉄道(JR北海道)の新交通システム「DMV」(デュアル・モード・ビークル)が選ばれた。この「DMV」は、鉄道の線路と一般自動車道の路線を、乗客を乗せたままどこまでも運んでくれる夢のハイブリッド交通システムである。低コスト、省エネルギー、コンパクト搬送、シームレス走行のこのシステムは、鉄道やバスの廃線に悩む地方の足としての救世主となることだろう。さらに災害時や事故による線路のバイパス使用にも威力を発揮することなど、「DMV」の可能性は高い評価となった。

このユニットは、部品から交通システムに至る幅広い分野となったが、やはり大企業の応募が多く、この分野を支える、部品メーカーや中小企業の応募が少なかったことは、当ユニットからの中小企業長官賞が該当が無かったことにも現れているが、応募システムや審査委員推薦を含めて、今後の大きな課題であり期待するところである。