2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

移動・ネットワーク領域
ユニットC14:家庭で使う情報機器など

山中 俊治

インダストリアルデザイナー


AV機器の外観は、光沢のある黒の三次元曲面がトレンドである。 ディスプレイなどの透明アクリル面との連続感が出しやすく、光を埋め込むことによる未来的な演出に適している。韓国のサムスンがこの表面処理をほとんどの商品に施して、北米を中心に大きくシェアを伸ばしたため、各社ともそれに習った形である。

ピアノブラックと呼ばれる、この光沢の黒は、実はデザイナー泣かせの物だ。形の上で不自然なところがあると、光の反射がそれを強調して目立たせるので、高い精度の樹脂成形が要求される。ところが、型に流し込んで成型されるプラスチックは、樹脂に偏りができたり熱でゆがんだりで、なかなかデザイナーの意図する形になってくれないものなのである。結果として、つるんとした曲面をめざしたはずなのに、妙な光の反射がゆらゆらと走り、いかにも質感の悪い形状になってしまうことも少なくない。そうした現象を防ぐには、技術力も必要だが、デザイナーの成形技術に対する深い知識が欠かせない。

黒い曲面のゆがみは、私たちの生活に意外に不愉快な影響をもたらす。例えばテレビの縁にゆがみがあると、部屋の明かりや景色が不自然な形に写り込み、せっかくのハイビジョン映像の周りにちらちらと光の帯が走る。応募された商品の中には、そのような「ゆがみ」が目立つものが少なくなかった。結果として、映像機器としての基本機能をかたちが阻害してしまっているのは大変残念なことだ。光沢の黒を先行して流行させた韓国メーカーは、さすがに従来にない高精度の曲面を作り出している。このレベルを超えてこそ、後を追うことの意味があると思うのだがどうだろうか。

金賞を受賞したパイオニアのプラズマテレビは、こうしたトレンドにあらがい、あえて映像の周辺に三次元曲面を用いていない。薄くフラット、スクエアなディスプレイという、ともすれば凡庸になってしまうスタイルを、ていねいな加工技術と繊細な配慮で「非凡」にまで高めている点がすがすがしい。 家庭用AV機器は情報機器でもある。私たちは日常様々な画面操作に直面するが、本当に使いやすいものに出会うことは意外に少ない。使いやすい操作の実現に必要なのは、ともかく開発に時間をかけること。何度もプロトタイプを作り、被験者に使わせてみて改良を重ねることだけが、安心して快適に使える商品を生み出す。近道はない。

見た目はあまり変わらなくとも、使い始めてからの幸福感の差は大きいので、操作画面については時間の許す限り深い階層まで審査の対象とした。結果として、メーカー間に思ったより大きな差がでている。ソフトウェアは通常、商品アイテム毎でなく、多くの商品のプラットフォームとして開発されるため、そこに時間をかけられるかどうかの開発体制の差が全商品に現れてしまうようである。