2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

身体・生活領域
ユニットA05:住宅、集合住宅、マンションなど

難波 和彦

建築家


すでに周知のように、2008年度からグッドデザイン賞は、評価の立ち位置をサプライサイドからユーザーサイドへと転換することを決定した。これにともない、これまで複数のユニットに分散していた住宅関連の応募はすべて、身体・生活領域の住宅ユニットに統合されることになった。具体的にいえば、これまでのハウスメーカーやディベロッパーによる戸建住宅、分譲マンション、賃貸住宅といったいわゆる商品化住宅に、個別的にデザインされた戸建住宅や集合住宅が加えられることになった。サプライサイドから見れば、それぞれの住宅は、まったく異なる前提条件にもとづいてデザインされている。しかしながらユーザーサイド(住み手)から見れば、これらは多様な家族像やライフスタイルに対応した住まいのバリエーションを示していると考えられる。

このような多様な住宅を評価するために、一次審査終了時にこのユニットでは以下のような視点を採ることを宣言した。

「私達、審査委員は、近未来の生活者の立場から審査したいと思います。これからの住まいでは、さまざまなライフスタイルや家族構成に対応した多様な住空間が展開するでしょう。高齢者のためのユニバーサルな住まいや、単身者が集まって住めるような住空間の提案も必要です。都心に近い住まいにはワークショップやSOHOを備えることで、職住近接を促すこともありうるでしょう。新しい形の賃貸住宅も都市におけるライフスタイルのひとつの提案です。住まいは家族のためにあると同時に、近隣のコミュニティにも結びついています。したがって戸建住宅であっても集合住宅であっても、これからの住まいは近所づき合いを促進するような、柔らかな開放性を持つことが必要だと考えます。さらに日射や通風など自然のエネルギーを取り入れ、高性能なシェルターや設備を備えることによってエネルギー消費を抑えるような技術的な取り組みも重要な課題です。(以下略)」

審査を進める中で、ひとつ大きな問題点が浮かび上がった。上で述べたようにサプライサイドのデザインの前提条件が大きく異なるために作品のばらつきが大きく、すべての審査対象を同一の尺度によって評価することはほとんど不可能だという点である。そこで審査委員相互で話し合い、戸建住宅は商品化住宅と個別デザイン住宅に、集合住宅は分譲マンションと賃貸マンションに分類し、それぞれの評価基準を変えることによって評価することとした。具体的にいえば、個別にデザインされた住宅は、自由度が高いのでデザイン性のハードルを他よりも高くし、商品化住宅や賃貸住宅は、ライフスタイルに対して明確な提案を行っている住宅を評価するようにつとめた。問題は分譲マンションである。とりわけ大規模な高層分譲マンションは、おそらく経済的なリスクを避けるためだろうが、セキュリティばかりを優先し、都市空間に対して閉じたコミュニティをうみ出し、住戸においても新しい提案をほとんど試みることなく、旧態依然のデザインをくり返している。毎年、高層分譲マンションの応募件数が多数あるにもかかわらず、受賞率がきわめて低いのはそのためである。高層分譲マンションは、その巨大性ゆえに、今後の住宅のあり方を大きく変える潜在的な可能性を持っている。来年度は、その可能性を僅かでも示唆するような提案を期待したいと思う。