2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

移動・ネットワーク領域
ユニットC15:産業・公共用の情報機器など

戸島 國雄

ジャーナリスト


複合機はフロアスタンド型から机上型にいたるまで微細な改良・改善が年を追うごとに進んでいる。トナー交換の簡便性や省資源性、インターフェイスの操作性、視認性にいたるまで大きな破綻はほとんど見られず、意匠のレベルも一定の水準に達している。その最たるものがサステナブル賞を受賞したリコーの「環境調和型デジタル複合機」である。市場から回収した製品をリサイクルするという取り組みは着実に事業化しており、新しい世紀の息吹を代表するものとなりつつある。21世紀もそろそろ10年が経とうとしているこの時期にあってもまだこの複合機が新鮮に見えることは、我々にとって警鐘でもある。何はともあれ企業としてのリコーの挑戦を言祝ぐとともに、さらなる発展を期待して注視し続けたい。

新世紀ついでに言えば、オフィスの電子機器の有り様をどうしたいのかという、もっとも大上段に鳥瞰した提案なり、取り組みなりが鳴りを潜めて久しい。水面下の水かきは大層な勢いであってほしいと願って止まないが、こと複合機でいえば『紙は使わせてナンボ』という原風景をまずは根底から否定してほしい。『めったなことでは紙を使わせない』という提案こそ今世紀のテーマであろう。そういう覚悟を意匠化していくことが21世紀初頭のデザインなのだと肝に銘じて欲しい。

プロジェクターも新しい取り組みが目立った。日立製作所の「短距離投射機」はその代表格だが、投影には距離が必要というプロジェクターの原風景を見直すことで、分野に息吹を与えることに成功している。その先には、紙を使わせないという覚悟が通底しているはずだが、まずは個別に製品化が進んでいることを高く評価したい。

一方で、複合機はまだしも、プロジェクターにおいては付属のリモコンを展示したメーカーは数えるほどしかなく、通電できる状態だった製品はほとんどなかった。全般的に言えることだが、審査書類は不備が目立ち、他者の評価を受けるということへの想像力が欠落してはいまいかと不安に駆られた。忖度できることが意匠を施す者の最低条件だと思うが、そういう基準で見た時、応募されたものの多くが、実は選外であったことを明記しておきたい。評価する以前のレベルが散見された。

当ユニットにおいてもっとも高い評価を集めたのは東京電力の「グラッとシャット」であった。地震の時、電熱器具が火災の原因になることを電気コンセント型の製品によって防ぐもので、発想が優れており、操作性が簡便で、値段が比較的抑えられており、地震国の電力会社の提案として高く評価した。惜しくも金賞は逃したが、まったく新しい発想に基づいたこういう製品をこそ、新世紀においてはもっとも評価しなかればいけないと思う。

最後になるが、前段で触れた紙を使わせないという覚悟や、他者を忖度するという心根を敷衍化し善しとするのは、すべてこれ経営者のつとめである。審査では、経営者の顔が見えてこないことに苛立ちを覚えることが多かった。抱えている問題の多くはデザイナーにあるのではなく、経営者にあることは今年に限ったことではない。性懲りもなく明記しておきたい。