2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

産業・社会領域
ユニットB08:ソリューションビジネス、サービスシステムなど

紺野 登

デザインマネジメント


驚くべきことにこれまでこの分野はグッドデザイン賞とは無縁の領域だった。しかし、現実の経済では、モノ自体よりも知識や経験など無形の資産がユーザーの価値の源泉となっている。そういった中で「モノではない」、「カタチがない」ということで挙げられなかったソリューションビジネスやサービスシステムをグッドデザイン賞の対象に加えることには大いなる意義がある。その第一歩を共にできとても嬉しく思う。

私たち審査委員は、この新しい魅力的なジャンルの評価軸と、その背景について深く討議した。

まずグッドデザイン賞が「サプライサイド」から「ディマンドサイド」へ、という視点の切り替えを行ったのは時代の必然だ。だからこの新しいユニットが加わったのだ。そして、サプライサイドの視点ということを考えたとき、二一世紀の世界に影響を与える最大の変化の要因に「都市化」がある。なぜなら、そこから環境問題や高齢化社会などの諸問題が発しているからだ。

2008年には世界人口66億人のほぼ半数、33億人が都市住居者となった。かつて都市対農村の人口比は3:7だったのが5:5になったのだ。2050年推計人口は90億7500万人になるが、その大半が都市生活者になり、そこでは7:3に人口比が逆転する。

都市生活者の生活行為や仕事をいかにデザインできるか。これがソリューションビジネスやサービスシステムの究極の目的だと考えた。さらに、情報通信技術というのは単なる課題の改善だけでなく、従来行ってきた仕事のやり方や生活の仕方などを劇的に変革する力を持っている。もちろんそれは社会のために役立つことが狙いである。

こうして、結果的に、クロネコヤマトの宅急便をはじめ、Salesforce.comクリエイティブ・コモンズなど、都市型生活をデザインする背後に、情報通信技術が駆使されているような候補が多く挙げられた。従来評価されなかったジャンルだけに尽きることがない。とくに日本は江戸時代以来、優れた都市文化を醸成してきた。こうした歴史が温床となって、今後も重要なデザインの源泉ともなることも実感できた。

一方、社会との関わりのなかでは「サステナビリティ」がテーマになっているが、従来とは考え方が異なっている。「善いことをしているのだから利益は二の次だ」という発想の時代ではもはやない。社会的な共通善(common good)の追究がビジネスとも直結すると考えねばらない。

こうした観点から次の3つが評価の背景に置かれた。

1. 人々や社会の課題を解決していること(効果、インパクトの高さ)

2. イノベーション(革新的解決)のあること

3. 多くの人々のデマンドに応えていること(共通善、サステナビリティ)

ところで、どれも審査対象は一見カタチのないものではあるが、実際の審査に入ってみると、カタチの差異性の議論ではない、そのサービスやビジネスが現実に何を提供しているかという本質的次元でものを考えることが求められた。実はそれはとても現実的な経験だった。