2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

産業・社会領域
ユニットB11:公共建築、土木環境、都市計画、街づくりなど

田中 一雄

環境・プロダクトデザイナー


グッドデザイン賞の審査方針が、サプライサイドからディマンドサイドへと大きくシフトしたことによって、本ユニットも領域が拡大した。従来の公共環境にかかわるデザインのみならず、公共施設・公共建築などが加わり、多岐にわたる領域となっている。本年は変更初年とあって、応募者側にもやや混乱があったが、次年度以降は落ち着いてくるものと思える。

審査にあたり、施設・建築が加わったことにより、他の建築賞などとの違いが改めて討議された。それは、一言でいえば「社会領域という観点から生活者にとって空間の価値とは何か」であった。つまり、作品としての施設や建築の美しさではなく、その場が現代に生きる人々にとって、どのような価値を発信しているかを問うということである。

さて、こうした背景のもと審査がスタートしたが、全体的にはやや力強さに欠けたように思える。社会的に話題となった建築物も何点か応募されていたが、上記のグッドデザインの視点からみて、突出した作品は見出しにくかった。公共施設・公共建築の領域では学校建築関係が比較的充実していたが、特別賞として評価されるまでには至らなかった。特別賞候補としては、今年からエコデザイン賞の概念が広がり、サステナブルデザイン賞となったものに何点か候補があがった。たとえば「沖縄県立博物館・美術館」や「立教学院 太刀川記念交流会館」などは、それぞれエコロジカルな視点からのユニークな取り組みが評価されたが、グッドデザイン賞全体の総合評価において特別賞受賞には結びつかなかった。そうした中で、日本商工会議所会頭賞となった「油津堀川運河整備事業」は不振な日本の都市環境デザイン領域において、質の高いデザインプロセスを示し信頼感のある着実な成果をあげたものと言える。

環境デザイン領域は多岐にわたるものであるが、近年の土木公共投資への批判の中、必要とされる環境デザイン事業までが沈滞し続けていることは残念である。公共空間は長い時間の中を生きる共有財産である。こうした取り組みへの再評価を強く望みたい。本ユニットにおいても、こうした状況が応募にも反映していた。特に、橋梁等の土木施設、道路景観、サイン計画、ストリートファニチュア、遊具等、の応募が少なく、審査に苦慮した。このような状況下、今パブリックデザインが盛んな韓国から複数の応募があったことが特筆される。環境デザイン領域は挟間領域とも言え、評価機関も少ない。グッドデザイン賞がこうした領域の国際的な賞としても発展していくことを期待したい。