2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

身体・生活領域
ユニットA02:家庭用品など

長濱 雅彦

プロダクトデザイナー


このユニットは生活領域の中の家庭用品が対象で、先端デジタル機器のように、技術のブレークスルーに依存したデザイン開発が難しい領域である。そのことは、先を見るだけではなく、過去にあった生活作法や職人技術、長く愛されてきた素材等も、先端技術同様に取り入れて行く柔軟な姿勢が新商品づくりには欠かせないことを意味する。今年の受賞対象を振り返っても、ハイスペックな商品をいたずらに追うことなく、生活者目線から日本人の暮らしを丁寧に見つめ直したものが多く選出された。

今回このユニットから唯一金賞に選ばれた中川政七商店「花ふきん」もまさにその代表である。「過去にあった」素材、技術に改めてスポットをあて、それを現代に転化したデザインソリューションが特に評価された。地元奈良で古くから作られ、庶民に愛されてきた蚊帳生地をリ・デザインしたものだが、そこには柳宗悦の民芸運動を思わせる哲学が感じられる。民芸運動は言うまでもなく日用の生活品に美を見出したのだが、この「花ふきん」も暮らしに根付いていた素材の中に、新たな美(価値)を発見している点が共通する。今の時世、新素材に目を向け同じ機能を有するふきんを作ることは容易いだろうが、この商品がはじめから保持している「愛着」を生むことは出来ない。あるひとつのモノが人間の記憶の中に浸透し、心まで響く存在になるのには最低半世紀は必要だろう。地場の伝統素材には、新素材よりそのあたりにアドヴァンテージがあることを認識し、各地の産地には足下を再考した前向きなデザイン開発を今以上に期待したい。

それから,もうひとつこのユニットで目を引いた傾向を付け加えるならば、省エネ、環境時代がもたらした発想の転換であろう。昨年大賞のエネループプロダクトがその好例として挙げられるが、今年も多くのメーカーが大小問わずそれにチャレンジしていた。中でも、レックの「Goodbye Detergent!(さよなら洗剤)」という清掃用品シリーズは、(環境の配慮から)洗剤ではなく研磨効果の方に着目した、逆の発想が見事である。食器洗いなどの清掃用品が用途に応じて16種デザインされ、従来の同じ形状の食器洗いスポンジとはまったく別次元なそれぞれのカタチを生み出すことに成功している。また、TAMUの紙製ごみ箱「トラッシュポット」も、作り手発想から逸脱したデザインマネージメントが新しい製品を産み出した好例だ。「ゴミ箱自体がプラスチックなどの不燃ゴミでは矛盾がある」と100年の歴史ある自社の紙加工技術を再考し、実績のあったアイスクリームカップと同じロール加工に注目、軽さと十分な強度のリサイクルゴミ箱を完成させた。

こうした新パラダイムづくりに通じる足下再考や発想の転換は、例えば今後一人暮らし世帯が年々増加する(20年後には約4割)少子高齢化社会にあって、家庭用品のデザイン開発のベースであり、重要なメソッドと言える。これまでの消費者を若者-年寄り、都市-田舎などで分類するマーケティング手法だけを鵜呑みにせず、サプライヤ-サイドからデマンドサイドへ目線をシフトしてみることが、新たに浮上する価値、隠れている宝物を見つけ出す鍵と言えそうだ。新しいデザインは暮らしの中に既にある、そんな感想を改めて抱いた審査会であった。