2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

移動・ネットワーク領域
ユニットC13:個人が使う情報機器など

村田 智明

プロダクトデザイナー


この審査ユニットでは、私たちをとりまく携帯電話、デジカメ、パソコン、デジタルオーディオ等パーソナルな情報機器を担当しました。もはやそれぞれの性能面に不備があることは考えづらい成熟商品が大半なため、デザインには、その商品らしさをつくる機能や意図が特化した形で表現されるべきであると考えます。そして商品の魅力は、個人のパーソナリティを高度な次元に高め、心を美しく保とうとする啓蒙性、倫理性を持ったものでありたいと願います。したがって、ユーザビリティや審美性といった従来からのグッドデザイン賞の審査の視点に加え、サステナブルな観点やCSRの表現として社会への提案性という内容も意識して審査に臨みました。また、我々審査会はデザイナーが商品開発のどの段階から関わって、どこまで観察と想定を行い機能を取捨してきたのか、形や色だけでない「行為のデザイン」をどのように進めてきたのかを商品から見つけようと努めました。「機能筐体をカバーリングするだけ」の、表面処理と加飾のバリエーションデザインに陥っていないか、機能が単なる機能を超えて、新しいモノと人との自然な関係性を実現しているかなど、デザインの主導性がプランニング段階から反映された成果に特に注目しました。

具体的な審査にあたっては例えば、限られた審査時間の中でユーザーインターフェイスについてもできる限りチェックしました。特に審査対象が多く、検証に時間のかかる携帯電話については、約70件の審査対象について追加審査資料として応募者に審査会が指定する同一のタスク(メール作成の途中で送信先を加える、赤外線通信機能を使って情報交換をする等)の操作をしている様子をビデオに撮影の上、提出していただきました。それらの画像やビデオからハードとソフトウェアの相関関係やバランスを把握するとともに、タスクごとのインターフェイスの特徴を約40項目のチェックポイントに整理分類し、それぞれの対象が目指しているインターフェイスデザインの方向性を確認しました。それらを分析することで、特定の機能について、階層が深すぎてボタンを押す回数が多く、ダイレクトなアクセシビリティに欠けるとか、同系色、同明度のグラフィックの影響で見づらい選択画面になっているなどの問題点を発見しました。携帯電話分野は最近特に複数の商品が同様のプラットフォームの上に構成され、ギミックを伴うユーザーインターフェイスのアクションを駆使し、光や音やアニメーション化によるエンターテイメント性を各社の特徴として強く押し出しており、この分野独自の進化が印象的でした。

ひとつ残念に感じたのがスマートフォンです。携帯電話のウェブブラウジング元年とも言える今年でしたが、オペレーションやギミックのCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)における精度感、質感がまだ低いものが多い点は今後に期待したいところです。全体的に携帯電話は、開発コストと生産量のバランスから、共通筐体に外装CMFの変化で、キャリアへの対応を図っているという構図が一般的となり、デザインから革新性、新規性を発揮することの難しさを呈していました。

パソコン分野やパソコン関連のグッズ領域は海外メーカーも含めて、同じようなスペックに対して、似た外観デザインといったものが乱立している状況がありますが、その中でも小さな改善や、評価できるポイントを注意深く発見して審査を行いました。積極的な提案というよりは、CMFの差異に新規性を付加しようとするデザインが多く、残念に感じました。

オーディオの領域ではシリコンオーディオプレイヤーの中にiriverの商品など、新しいインターフェイスを提案している商品があったこと、ソニーから、従来の密閉型イヤホンでもスピーカーでもない解放型の新しいリスニングスタイルを提案するパーソナルスピーカーの提案があったことが印象的でした。

デジタルカメラ分野では、一眼レフとコンパクトカメラの間に位置する高性能コンパクトデジタルカメラのラインナップの充実が目立ちました。中でも、リコーのGRデジタルは独自のデザインの世界観を追求しつづけ、自らの市場を獲得したものです。一眼レフにはない機動性と今までのコンパクトデジタルカメラには無い表現能力、そしてカメラとしての魅力は、特別に目新しいというわけでありませんし、新規なイノベーションのある存在とはいえませんが、我々が違和感なく受け止められるパーソナルデジタルツールの一つの姿として、高い評価を得てグッドデザイン賞ベスト15に選出されました。