2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

産業・社会領域
ユニットB06:生産や物流に用いられる機器・設備など

澄川 伸一

プロダクトデザイナー


本年度このユニットは、極小の歯車から大型のクレーン車まで、かなり洗練されたデザインのものが増えてきたような印象を持ちました。結果的にはそのことが審査会場でも感じられ素晴らしい展示となりました。一般的には、普段は見たくても見ることができないプロ専用の機械ですが、どれも今日の大事な産業を担う優れた機械ばかりです。その中でも今年は特に、大企業のデザインマネージメント力の高さを強く認識しました。例えば金賞候補の常連であるトプコン社の計測機器は卓越した機能を備えつつも、非常に明快なコーポレイトアイデンティティを感じるデザインを今年も継続しており、優れた記号性を持ったデザインです。

単純に色の問題だけではなく、人間工学的な設計、吟味された操作性や携帯性、使用環境に対する配慮など、とてもバランスよくまとめています。こういった機械は、頻繁に買い換えるものではなく、一度設置したら比較的長い期間使用するものが多いです。そのため、熟練作業者から新米作業者への技術の引継ぎが行われる際に、その操作方法が明快に伝えやすいデザインである必要があります。いくら技術が進化したとはいえ、その操作方法や表示方法がコロコロと変わってしまうのではメーカーとしての信頼性にも不安を感じてしまいます。技術の進化とともに、変えるべき部分、変えてはいけない部分の見極めを慎重におこなわなければなりません。これは日立建機の油圧ショベルのメーター類が、デジタルでありながら、あえて既存のアナログ表現を再現させていることにも感じることができます。つまり、作業者と機械の「引き継いで仕事をする」という視点がとても大事になってきています。

また同様に、島津製作所の一連のデザインにも優れたデザインマネージメント力を感じました。製品のスペックも、自信があるものほど外側のデザインにも滲み出てくるものです。使い勝手を十分に考慮しつつも、大胆で合理的な造形処理を実現させた力量はとても見事でした。商品を群としてとらえた場合、こういった企業のデザインに対する取り組みの努力の結果はとても端的に現れてきます。少量生産の機械がほとんどなだけに、板金の曲げや、部品の流用など、外観に対しての形状自由度が少ないのが産業機械デザインの制限となります。その制約におけるデザインの工夫には、真に知恵と努力が不可欠なものだと感じています。

当ユニットの審査基準は、あくまでもヒューマニズムを重視しました。作業する人たちの安全性、ストレスのない操作性、作業環境における配慮。そして先ほどの「技術の引継ぎやすさ」です。全般に低騒音、省エネルギーを謳ったコンセプトが多かったのも今年の特徴です。こういった要素は継続しなければ意味がありません。今回、ベスト15となった三菱重工業のオフセット枚葉印刷機は、そういった部分を考慮したうえで、少量多品種の印刷物に対する、細かい配慮がなされた企業努力の渾身の成果です。ドイツの印刷機と肩を並べられるだけの高品質な印刷機械の誕生だといえます。