2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

産業・社会領域
ユニットB10:医療、福祉、教育、公共空間で用いられる機器設備など

森山 明子

デザインジャーナリスト


再編されたこのユニットが対象とする医療用、教育用、公共用の機器・設備では、購入者と使用者は異なる場合がほとんどである。とりわけ医療の分野では、デザインの恩恵を享受するのは患者と医療従事者とに二分される。審査において想定する「近未来のディマンドサイド」は多層なのだ。とはいえ医療従事者が機器・設備を使う際の安心・安全が患者のそれにつながるのだから、このユニットの評価基準の第一は両者にとっての確実・安全・安心とし、機器相互間や医療空間との調和も考慮した。

高齢社会を一因として高度医療や予防医療に対する人々の関心は高まるばかりで、この分野には1億円をこえる高性能、高額製品が目白押しだった。そのひとつ、全身用X線CT診断装置「アクイリオン」をビッグサイトに搬入し、審査委員のみならず一般来場者がそのデザインに触れることができるようにした企業努力には敬意を表したい。企業間で連携を図る試みも見られた。胃ガン等の早期発見のために負担の少ない経鼻内視鏡を開発、普及させるのに、応募企業は医師や技師ばかりか競合他社とも協力して安全な鼻麻酔や挿入法についての研究会を組織し、医療全体の質を高めるための活動が行われたのである。好ましい動向だと考えている。

教育・遊具、公共財の審査では確実・安心・安全に使い手の創造性を喚起するコミュニケーションの観点も加わり、地域産業への貢献、堅牢性やメンテナンスへの配慮も重視した。たとえば、昨年コルクの積み木で賞を獲得した企業が今年応募したヒノキ製の積み木。高知県四万十ヒノキの間伐材を集成材としたものだが、遊具として優品であると同時に、ギフト商品の定番となる可能性もある。そうなれば地域の林業組合の活性化に益するところ大であり、中小企業のデザイン進化のモデルともなる。それと対比するなら、中小企業庁長官賞に選ばれたスツールの企業は本格的なデザイン導入に着手したばかりのようだが、選択肢の少ない屋内使用の公共ベンチに新たなページを拓く感があった。

こうしたデザインを審査会場に迎えるのは、頼もしく嬉しい。そこここに、明日の生活者の期待に応えるデザインの発芽を感じることができるからだ。同じ意味で、関西学院初等部デスクセットにも感心した。だれもが使用する小学校の机や椅子は長く記憶に残るもので、丁寧につくられた懐かしく新しいデザインは十分な普遍性を備えていた。いずれも、今年新設されたライフスケープデザイン賞の近未来の候補と呼ぶにふさわしい。

というわけでこのユニットでは、5つの審査理念のうち評価のポイントとしては「ヒューマニティー」と「オネスティー」を重視したが、その上で人々が共有するに値する未知のデザインに出会えることを今後一層期待したい。最終ユーザーが選択できないデザインこそが、一国のデザイン力のバロメーターだと思うからだ。