2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

産業・社会領域
ユニットB09:オフィス、商業設備、生産施設など

安田 幸一

建築家


今年の作品を昨年と比較すると、美術館などの公共建築が他の審査ユニットに移行したため、一次審査当初から派手さがなくなったという印象があった。すなわちこの審査ユニットが対象とするオフィス、商業、生産施設という分野は一見して「地味」であり、そもそも都市を「図」と「地」で色分けするとすれば、この領域に属するものは本来「地」になる建築が多くなる傾向になると感じた。この領域の建築は、「都市を建築が変えていく」という強い態度は陰をひそめ、しかし積極的に「都市を守っていく」というやさしい態度のほうが望ましい。企業が理想と考える環境は、やがて社会の「地」となりグラウンド・デザインになるものである。オフィス=仕事する場、あるいは商業インテリア空間=高級感のある空間というような解も残念ながらあったが、このような単純な図式を超えたトライアルな提案も数多く見られ、これらの魅力ある建築が一次審査を通過した。

二次審査では、建築やインテリアがおかれる土地との密接な関係、すなわち建築を取り巻くコンテクストの特別な捉え方を提示しているもの、巨大プロジェクトにおいてヒューマンスケールをうまく創っているもの、そして省資源時代における環境に対する独自の思想をもったものが選ばれた。都市景観的には、都市が有している基本的なベース(基礎)をしっかりと受け止めて、コンテクストから遊離せず、かつ「前に出すぎず」しっかりと地道なコーポレート・アイデンティティを醸し出しているものが結果として高く評価された。このような「地道なもの」を特にグッドデザイン賞が今後評価していかなければならないと審査委員の意見が一致した。

SIA青山ビルディング」は、オフィスビルというビルディングタイプを逸脱したような新しいイメージを発信した。外観は真っ白くて目地も無く、正方形の開口がポツポツ開いただけで何の用途か、何階建てかもわからない。広いワンルーム空間のオフィス内部は、窓が縦にふたつ入って5m近くも天井高がある。オフィス=ガラス・ファサードという常識を覆し、免震構造という技術に裏打ちされた「新しいオフィスイメージの創出」は高く評価され金賞を受賞した。

GYRE」は惜しくも金賞を逃したが、表参道に建つユニークな構成の商業施設である。旋回、渦という名のとおり、四角い平面形が各階でズレて配置されており、そのズレた隙間に豊かなテラスなどの外部空間をつくり出しながら外部階段で有機的に各階をつなぎとめている。派手な空間構成がゆえに街並から突出する危険性もあったと思うが、外形は敷地境界線に沿ってスパッと切り落とされ、抑制された材質でファサードを覆い、表参道の街並に違和感なく溶け込んでいる。この建築全体のバランスの良さがデザインの成熟度の高さを示している。その他、端正なオフィスビル「川本製作所東京ビル」「小学館神保町すずらん通りビル」「そば蕎文 + ART WORK STUDIO AN」「UD日比谷ビル」なども高く評価された。