2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

身体・生活領域
ユニットA01:身につける用品、趣味・スポーツ用品、ハンディキャプト用品など

左合 ひとみ

グラフィックデザイナー


「身体領域」として括られるこのユニットは、(1)身につける生活雑貨、(2)ホビー・スポーツ用品類、(3)高齢者やハンディキャプトに配慮した道具や機器といった、生活者の身体に触れる日常的な製品全般が審査対象である。身近なものが多いだけに、より快適で豊かな生活を実現するキーを握っている領域とも言える。そこで(1)と(2)に於いては、ものやことをつくる創発力を基本的な審査基準とした上で、(1)では生活文化を豊かにする魅力、(2)では未来を切り開く創造性を加えた。問題解決の姿勢が特に必要とされる(3)では、現代社会への洞察力と社会・環境に対する思考力を問うことにした。

アイテムが多岐にわたるユニットではあるが、全体を通して感じられた傾向は、「軽量」、「コンパクト」、「簡単」を目指したデザインに優れたものが多いということであった。それらは身につけるものの重さや違和感、持ち運びにくさ、複雑さや難しさといったストレスの解消に、ユーザーの視点から取り組んだ成功例である。金賞を受賞した小さな2足歩行人型ロボット「オムニボットワンセブンミュー アイソボット」もその一例である。組立て済みの完成品のためすぐに遊べ、簡単な操作で驚くほど多彩なアクションを見せる。日本のものづくりの美点である繊細な操作性と表現力は、理屈抜きに審査会場を沸かせた。

また、健康への関心が高まる時代を反映した、体組成計やフィットネス関連機器の応募作が目立ったのも今年の特徴と言えるが、必要とされる機能の見極めが不十分なものが多かった。時代性のある分野であるだけに、ユーザー視点での的確な見直しを期待したい。

高齢者、ハンディキャプトに配慮した道具という分野では、配慮を特別なものとして表に出すあまり、心理面への配慮が欠けているケースも多々ある中、この分野の進むべき方向性を示唆する優れた例が見られた。ひとつは、食器の縁にこぼれにくい返しをつけながら、返しを貝の形に見立てた無理のない造形と、さらにスタッキングも可能にしたテーブルウエア「シェル」。障害者が特別視されることのない、ごく普通で自然な食環境を目指す視点から生まれた提案性の高いデザインであり、真の意味でのバリアフリーが感じられる。もうひとつは、量産モデルとしては世界最軽量の車椅子「U2ライト」。事故で車椅子ユーザーとなったデザイナーが自分自身のための道具として改良を重ね、軽い力で動く操作性や長時間座っても疲れない快適さなどを追求した。ユーザーが障害に臆することなく活動できる豊かな生活を可能にしている。

ものがあふれる現代、ものの存在意義が問われている。人が日々触れる身近なものこそ、ユーザーの抱える問題点や願望に対する想像力が求められる。身体領域での秀作は、いずれも生活文化を向上させる可能性を持つものであった。