2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

移動・ネットワーク領域
ユニットC16:企業などが行う広告、広報、CSRなど

永井 一史

アートディレクター


デザインの持つ未来を生み出していく力を見据えた上で、送り手の側からではなく生活者側の視点でデザインが何をもたらしたのかを評価するというのが、今年からの新しいグッドデザイン賞です。その考え方を基調に、このユニットとして、①アイデア②表現力③コミュニケーション力の3つの基準を設けました。まず、“アイデア”については、創造力と置き換えてもいいと思いますが、ある要件や課題に対してどのような視点で取り組み、どのような発想で解決しようとしているのかを評価するものです。二つ目は、“表現力”です。いいアイデアも、それにふさわしいカタチを与えなければ意図を伝えることはできません。具体的なカタチにし、定着する力です。そして三つ目は“コミュニケーション力”です。これは、その商品やサービスがデザインを通じてきちんと生活者に伝わっているか、また顧客との良い関係を構築することができたかを問うものです。この3つを念頭に審査を行いました。

今年の傾向としては、企業や商品自体のコミュニケーションだけではなく企業の社会的な取り組み、CSR活動のエントリーが多く見受けられました。企業が自社の利益追求だけではなく、企業市民としての役割を認識してきた今の時代性を感じました。その取り組みの代表としては、「PLAYSTATION3向けアプリケーションでのFolding@homeプロジェクト協力」があります。ゲームをしない時間にタンパク質の解析をし、医療に貢献するPLAYSTATION3のハードのパフォーマンスを最大限に生かした活動で、沢山の人を巻き込んだ社会的影響力の大きさも評価のポイントでした。また、「UDingシミュレーター」は、一般生活者の中にも多くいる色覚障害へのソリューションとして、作り手であるデザイナー側をサポートしていくという考え方で、ユーザビリティも高いデザインです。また放課後の子供たちの生活をどれだけ豊かなものにできるかという「放課後の家づくり」は、子供たちに一年かけて家をつくってもらうという試みです。完成した小さな家というものが、造形的な面白さと同時にこれから子供の人生のメタファーとしても感じられ興味深いものでした。その他にもCSR活動として沢山の応募がありましたが、まだまだ過渡期で、全体としてはオリジナリティや表現力が弱く感じました。またそれ以外の従来のカテゴリーでは、パッケージデザインを中心に秀作はありましたが、金賞候補になるような我々をハッとさせてくれるような飛び抜けたものは少なかった気がします。このユニットの、表現領域はとても広いので、従来の領域はもちろんのこと、今後は人とモノやコトとの新しい関係を生むような、意欲的な応募を期待します。