2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

身体・生活領域
ユニットA04:家具、インテリア、住宅設備など

益田 文和

インダストリアルデザイナー


今年度の審査に先立って、われわれのユニットでは審査委員全員で話し合い、次のような評価の視点を持つことを確認した。

<10年後に向けてサステナブルな暮らしのパイロットとなるデザイン提案を顕彰する >

地球環境に対する本質的な理解に基づく規範と、人に対する最大限の思いやりを文化の基本とするサステナブルな社会を実現するために、価値観と美意識をチューンしてゆく。そのことをはっきりと意識した、質が高く美しいデザインを発見し、評価し、紹介することをグッドデザインの使命としたい。

選ばれた提案群から浮かび上がってくるのは、伝統的な知恵と最先端の科学技術が相まって織りなす「いき」な暮らしの姿だろう。

奇をてらう野暮、見栄を張る野暮、配慮を欠く野暮、品のない野暮、独りよがりな野暮、美意識に欠ける野暮を退けて、粋な評価を心がけたい。

実はこのほかにも、強欲、人の欲に付け込む、売らんかな、みすぼらしい、粗野、無知、無神経、偏狭、傲慢、など様々な野暮が挙げられた。

これらは、受賞すべきデザインの価値の対極にある、望ましくないデザインの性質であり、その対比で「いき」なデザインなるものの輪郭を明らかにするためにあげつらってみたものである。したがって、今回残念ながらグッドデザイン賞を受賞しなかった応募作がこのどれかに当てはまるということでは決してない。そうではなくて、これらの野暮の対極にピンととがって見えてきたものを積極的に評価しようということである。

さて、結果的にはどうであったかというと、応募作の多くが押し並べて「いき」の方を向こうとしている磁場のようなものは大いに感じられた。たとえば多くの応募書類に環境とかエコなどの言葉が使われ、国産とか地域独特の素材を使っていることを強調する表現が目立ったことなど、今までにない傾向が見て取れた。しかし、そうした想いが誰の目にも鮮やかに「いき」なデザインと映るまでに至らないのは、製品のデザインが暮らしそのものの提案にまで踏み込んでいないからだろう。

デザインは、もう少し大胆になるべきである。世界の未来を構想し、あるべき社会を描き、暮らしを描ききることで、生活空間や製品や道具が生き生きと見えてくる。お使いいただくのはお客様ですから、どうぞどのようにでも解釈していただいて、ご自由にお選びください、という姿勢ではなかなかピンが立たない。

例えば、組み立て式和室「箱家」のように、やや独断的で、ある意味で逆説的な提案であっても、やりきることによって見えてくる新しい価値のようなものがある。ところが、なかなか良くできた家具であっても、これからの時代や社会を見据える視線を感じることができないと、かつてのグッドデザインの水準を超えられないのである。

特に生活領域において顕著であるが、グッドデザイン賞はいよいよ提案デザインコンペの性格を強めてきている。ただし、商品の完成度が問われる、もっともプロフェッショナルなコンペティションであり、同時に応募する者と評価する者の共同作業で未来の社会と暮らしを占う場でもある。来年度は、さらに積極的な参加を期待したい。