2008年度受賞結果の概要

2008年度審査委員長総評/審査講評

2008年度審査講評

産業・社会領域
ユニットB07:店舗アミューズメント、オフィスで用いられる家具・設備など

安次富 隆

プロダクトデザイナー


当ユニットでは、「品質」(美観、質感、コストパフォーマンスなど)、「有用性」(操作性、機能性、性能など)、「先進性」(オリジナリティ、サステナビリティなど)を評価ポイントに二次審査を行いました。つまり、「見て、触れて、使って、納得できるか」が評価の論点でした。

さて、当ユニットは成熟商品が多いことが特徴です。応募商品どうしの基本機能に大きな差はありません。そのため、作り手も使い手も、基本機能以外の価値を求める傾向にあります。いわゆる付加価値です。ところが、使い手の要望にジャストミートさせるのは容易なことではありません。なぜなら使い手は、とりあえず用が足りれば無口で居続けられるからです。無意識に欲していた商品に出会ってはじめて、なるほどと思うことが多い。

例えば、株式会社内田洋行の「アクティオ」。メカメカしい高機能チェアが主流となっているオフィスチェアの中で、ずいぶんとスッキリしたデザインですが、実は必要十分な機能を備えています。意図的に高機能をフォルムになじませているのです。頻繁に使わないのに、様々なツールが椅子の左右、底面、足回りに飛び出していることが高機能の証と思っていた私たちをハッとさせるデザインです。不易糊工業株式会社の「3ウェイペン」も目から鱗の商品です。「3ウェイペン」は、ボールペンとシャープペンシル、直径2mmの消しゴムを一本にまとめた多機能ペンです。考えてみれば、ボールペンとシャープペンシルを一緒に使う機会はほとんどありませんが、シャープペンシルと消しゴムは常にコンビです。つまり一本にまとめて欲しかったのはその二つだったと気づかせてくれます。この二つの商品のように、望まれてデザインされたのではなく、望んでいたデザインだと思わせる力が必要だと思います。そういった意味では、株式会社イトーキの「LANシート」の気づきは使用者の共感を得られるだけでなく、未来の風景を一変させる可能性さえ秘めています。LANシートは、本体から1mの範囲内だけ無線LANが使えるという商品です。たったそれだけのことですが、ケーブルのようにセキュリティーに強く、無線LANと同様に柔軟性を合わせ持った、新しい通信形態を実現しています。この限定された範囲内で無線通信できるという考えを応用すれば、未来のロボット人工皮膚や床や壁面、ウエアなどへの展開も考えられます。通常、技術の進化とは、何の疑いもなく性能や能力を向上させ続けるものだと考えがちですが、それらを制限することで新しい価値を生み出すこともあるのです。考えてみれば、「アクティオ」も「3ウェイペン」も、むやみに価値の追加をしたわけではなく、使用者の視点に立って道具のあり方を再検証し、デザインしていることがわかります。

このように今年の審査をレビューしてみると、当ユニットの商品は成熟商品が多いというのは誤った見方なのかもしれません。価値を付加することを考えるよりも、時代の変化に合わせた道具の真価を正面から問い続ける必要がありそうです。