2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

C. コミュニケーションデザイン部門
C01:コミュニケーションデザイン

永井 一史

アートディレクター


例年からの変化として大きかった点は、コミュニケーションデザイン部門が二つのユニットに分かれて「デジタルメディア」が独立したことだ。去年まであったWEBサイトなどネット上での応募作がデジタルメディアユニットに移行したことによって、このカテゴリーとしての鮮度ある試みが減ってしまうのではないかという心配もあったが、実際の応募作には、金賞のキッザニアをはじめ、今までにない新しいコミュニケーションのあり方を提案した意欲的な応募が多く、心配は杞憂に終わった。むしろメリットとして、応募作のカテゴリーが整理されたことで相互の比較がしやすくなり、審査の深度がより高まったように思う。

グッドデザイン賞全体の評価基準とは別に、それぞれのユニットとしての審査基準を明確化しようという審査委員長の投げかけによって、まず当ユニットにおける審査基準をどこに置くかという議論から、審査は始まった。
例えば、新しくはないが極めて高い完成度を持ったものと、完成度は高くなくても新しいことを持ち込もうという意欲的な姿勢が感じられるものとの関係。また、ブランドや商品独自の世界観を表現するために趣向が凝らされたパッケージに対して、エコロジーやユニバーサルな視点を追求したものなど。一見相反する視点のバランスを如何にとるか。また、絶対的なクオリティで評価すると、大手のメーカーが占有してしまい、地方の小さなメーカーの応募作が漏れてしまわないか、などの問題提起がなされた。
それらについて、審査の前に明確な評価基準を出そうと考えたが、議論を積み重ねるうちに、それは事前に決められるものではなく、常に個別のものとしてでしか評価できないことに気付いた。結論として、実際の審査の中で、審査委員ひとりひとりが様々な視点を提出し、偏りのない審査ができるようこころがけた。
まず、審査委員の中でも評価が高かったのが、金賞を受賞したキッザニアだ。審査会場に展示された、実際の企業名のついた3分の2サイズの宅配便のダンボールなどのチャーミングで魅力的なツールや、パビリオンはもとより子供のためのエンターテインメントとしての新しさ、現代の日本においての社会的意義を含めて、審査した当初から今年のユニットを代表するものだという確信を持った。
パッケージの中で際立っていたのは、水戸菜園の立体包装容器「パットラス」だ。
中身を様々な角度から見ることができる分かりやすさ。つぶれにくいという機能性。極めて簡単に開封できる利便性。開封後、舟のようなカタチの皿にもなるという省資源性。それらのパッケージとしての諸要件が、大げさな包装ではなく、薄いフィルムを使っただけのシンプルなパッケージで実現できているところが極めて優れたデザインになっている。また、応募作の中にはエコロジカルな視点を重視した秀作がいくつかあった。
まず、自動車に変わる移動手段として自転車の利用を促進するプロジェクト「東京自転車グリーンマップ」である。自転車利用者のための地図という、これまでありそうでなかった新しい提案であり、このデザインが、企業ではなく市民団体から生まれているという点も時代性を感じた。人々がQuality of life.を追求していく中で、デザインという方法論が、送り手である企業からだけではなく、使い手である市民のネットワークにも広がっていくことは、デザインの進化として、大変重要なポイントであると思う。その先鞭をつけた「東京自転車グリーンマップ」は、これからのデザインのひとつのあり方を示唆している。今後も優れたデザインを通じて社会への定着を図ってもらいたい。また、昨年も高い評価を得た三洋電機の「エネループ」は、さらに進化し、充電池の枠を超えたブランドであることが誰にでも理解できるようなコミュニケーション活動を展開していた。環境問題への取り組みを身近な商品群で実現し、ユーザーに「気づき」を提供することは、企業としてのプレゼンス向上にも寄与するものであり、これをデザインが主導している点が素晴らしい。また、ブランドとエコロジーとの関係の興味深い例としてあげられるのが、日清食品の「カップヌードルリフィル スターターパック」である。紙素材を採用する競業他社が増える中、発砲素材がアイデンティティーであるカップヌードルが挑戦したエコロジー提案である。リフィルという新しい作法を含めた提案は、環境問題を身近で楽しささえも感じられるスタイルとし、ユーザーに新しいコミュニケーションをもたらしている。

コミュニケーションデザインは、モノと人だけではなく、人と人、社会と人との大きなパースペクティブの中で捉えていくことによって、デザインの可能性を追求していくための大きなポテンシャルを持っているカテゴリーであると思う。パッケージなど、既存領域での新しい挑戦ももちろん重要であるが、デザインの領域や概念を押し広げたりできるようなさらなる意欲的な試みに、期待したい。(審査ユニット長 永井 一史)