2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A01:身の回り商品、健康管理・美容商品等

廣田 尚子

プロダクトデザイナー


このユニットは、「身のまわり商品」と称される、眼鏡・腕時計などの身につけるプロダクト、体組成計や下着などの健康管理・美容商品、介護用品などの高齢者・ハンディキャプト商品を審査範囲とする。機器から衣類に至るまで多岐にわたる商品が一堂に集まっている。そのため、審査基準は「人を中心にした視点でデザインしているか」としてデザインの質を判断した。
2007年度は昨年度に比べデザインの質が確実に向上している。特に感じたのは各分野において、一歩抜きん出た商品が応募されるようになってきたという傾向である。全ての審査の中で、このユニットは最も人に直接触れる機会が多い商品群であることから、今年の傾向は身近な生活の質の向上と直接結び付く事になるので感慨深い。 ここに審査時に深く印象に残った商品を4点挙げ、そこから今回全体における質の高さを説明したい。
「身につけるプロダクト」からはカシオG-SHOCK GULFMAN。海で働く男性に向け、あらゆる使用シーンを想定し細かい内部パーツに至るまで、徹底して作られている。海水での腐食を防ぐ目的で使用したチタン素材が、これまでの同シリーズが持つタフな印象を改めて強く打ち出す結果となっている。その仕上がりは非常に精緻で魅力的。またG-SHOCKシリーズは、1985年に登場以来20年以上に渡って市場に存在し続け今も進化し続けている。今年はレディスモデルもメタルを使った良い仕上がりとなっており、企業のブランディングに成功している好例としても、評価が高い。日本オリジナルデザインの一つとして確信し、デザインの力に魅せられた。
「身につけるプロダクト」からもう一つ、ジャパンオプティカル(株)スイスフレックスキッズの子供用樹脂眼鏡枠。金属やネジを使わない樹脂フレームは他にもあるが、この商品は子供の使用環境に合わせて細かい配慮を重ね、完成度が高い。そのフレームは驚くほど軽く子供でも掛けている煩わしさを忘れる事が出来るだろう。使われているナイロン系樹脂はしなやかで耐衝撃性に優れ、子供の活動を自由にし成長を助けることになると考える。直接肌に触れる部分についてアレルギーフリーにするなど、繊細な子供の皮膚に対する配慮が随所まで行き届いている。子供に深い視線を傾けたからこそ、ここまで仕上がったに違いない。
3点目は宮崎タオル(株)今治マフラー70。タオル素材を使ってマフラーにした斬新な発想と、ファッションアクセサリーとして見ても美しい質の高さは、審査時に審査員の関心を集めた。ウォーキング時の使用を想定し、そのための快適性を誠実に追求している。巻きやすさ・肌触りにこだわった滑らかで軽量な生地はオーガニックコットンを使用し、吸水性と保温性を両立。毎日洗濯して使える。カラーは日本人の顔色に合う穏やかなトーンでバリエーションを豊富に展開している。最もシンプルな「1枚の布」でできているマフラーに、これ程丁寧な目を掛けて作り込んでいく誠実さに感心した。また、高級志向が高まる市場のニーズがありながら行き詰まり感があるタオル業界の中で、このような新しい市場を開拓できる商品が生まれることは、まさにデザインが次の光を見出した好例である。
最後は、車椅子用床ずれ防止器具、横浜ゴム(株)メディエア。
これまで防ぐことが出来なかった床ずれを実際に解決できる、日本初の商品として高く評価した。エアーセル(凸凹状)クッションによって耐圧を分散し、その滑らかな動きによって、血流を促進させるというもの。自動制御装置はコンパクトな設計で、車椅子に搭載したままの外出を可能にした。エアーセルの独特なリブによって、柔らかさと押し上げの強さを両立している。実際に座ってみたが、滑らかなウェーブを感じる程度の非常に繊細な仕上がりだ。ユーザーが起きている間中、稼働し続ける設定のため、静音設計となっている。今後この分野のデザインをリードする存在になるだろう。
今回は、先に挙げたメディエアのように突出して良い商品があったが、高齢者・ハンディキャプト介護用品分野では、グッドデザイン賞の受賞に至る商品が非常に少ないというのが残念な現状である。ユーザーの声や、医療のノウハウ等の現場の情報を基に数多くの取り組みが行われているが、そこに物作りとして全体をまとめるビジョンや、人に近くなるための精緻な努力を注ぎ、良いデザインが増える傾向になって欲しいと願う。丁寧な視線による高い完成度のデザインが求められることがこの分野の課題だ。
日常の身の回りにある商品を集めたこのユニットには、日本の生活を見直すことでより良い商品を生む可能性が潜んでいる。この分野では大手メーカーだけでなく、中小の企業にも日本オリジナルの発想による質の高いデザインが生活を力強く変えてゆく。今年の審査でその思いを強くした。(審査ユニット長 廣田 尚子)