2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査総評

B. 建築・環境デザイン部門
B02:建築デザイン2(工業化住宅、マンション等)

芦原 太郎

建築家


商品住宅に至るGマークの歴史を振り返ると、1991年に住宅設備・エクステリア部門に工業化住宅が登場し、あくまでプロダクトの延長としての工業化住宅が初めてGマークを受賞した。その後、1996年に工業化住宅・住宅設備部門と名を変え、この年のグッドデザイン大賞は工業化住宅のミサワホームのGENIUSであった。
2000年に建築・環境デザイン部門が新設され一般建築と建築家や注文生産の住宅も新たに審査対象となった。この年マンションも初登場し、工業化住宅とともに住宅・住宅設備のユニットで審査が行なわれた。2001年工業化住宅やマンションも一般建築と一緒に建築・環境デザイン部門での審査対象となった。
マンションの応募が急増したことに伴い工業化住宅と工務店・ハウスメーカーによる住宅をまとめて、本年度より建築・環境デザイン部門の建築デザインユニットからマンション・商品住宅審査ユニットが独立した。

マンション・商品住宅審査ユニットの考え方

商品住宅ユニットの審査対象は、工業化住宅や工務店・ハウスメーカーによる住宅そしてディベロッパーによるマンション等の商品として売られている住宅である。クライアントが建築家に依頼するような個別設計の住宅は対象外であるわけだが、厳密に考えるとその境界をはっきりさせることは難しくなる。住宅を建築賞としではなく、あくまで商品としての観点から評価を行うユニットと考えたほうが分かりやすいだろう。マーケットのニーズ、性能、コスト、デザインの質の観点からの評価を行うわけである。ただし商品住宅は売買の時点では商品であるが、消費者が一旦生活を始めれば住まいに変わり、個別の敷地に建設されれば環境構成要素としての建築になることを忘れてはいけないだろう。評価にあったては、ディベロッパー、工務店、ハウスメーカーといった販売主体や市街地や郊外といった立地、戸建て、マンションといった住宅形式等を配慮した商品ジャンル別に比較検討し、一歩秀でたものをGマーク受賞とした。

横並びの工業化住宅とマンション

大手ハウスメーカーの従来型の戸建住宅は長年の蓄積により既に完成度の高いものとして横並びになっている感があるが、対象としていたマスマーケットが縮小傾向のなか、新たな展開の糸口がつかめない状況にあるようだ。こうした中でもミサワホームのGENIUSや積水ハウスのシャーウッドのデザインは、その完成度が他を一歩引き離したものであった。地方や中小の工務店やハウスメーカーは地場産業や建築家との連携で独自の商品を活発に開発している。
マンションの応募も非常に多くなり、差別化のためにも消費者にデザイン訴求が有効になってきていることが伺える。豪華に見えるような外装と共用部にお洒落なインテリアを競っているようだが、事業採算の制約から抜け出すことは難しいのか、デザインのレベルは良くなってきているものの結果的に似たようなものになっている。そうした中で、本年応募された住友不動産のワールドシティタワーズや三菱地所のセントラルガーデンのように地域計画に位置付けられストックとなるような景観・環境形成への貢献や、三井不動産のパークアクシス青山一丁目タワーのような本格的なデザイナーとのコラボレーションによる良質な空間づくり、アスコット・ポイントセミオーダーシステムのような多様な生活への対応などの取り組みを評価した。

事業枠組みのブレークスルー

本年度の建売住宅や賃貸マンションには、定型化しがちな事業の枠組みをデザインの力でブレークスルーした新しいものが登場してきた。
神戸名谷スカイガーデンビレッジは狭小な戸建建売住宅であるが、80戸の群として魅力的な町並み景観を創り出している。傾斜地の持つポテンシャルを最大限に活用することによりし、事業採算を守りながらた独創的な建売住宅の個別解を作り上げたことを大いに評価したい。事業枠組みは事業採算によりきまり、既存マーケットとの適合やクレームの回避に向けて定型化、保守化しがちである。
賃貸マンション「STYIM」では、事業や法律の枠組みを軽く乗り越えて、新しい空間による提案性のある生活に向けて一歩踏み出したデザインを特に評価した。全55戸に18タイプものバリエーションを用意され、1.5層、2層などの吹き抜けやメゾネットタイプがあるなど、平面だけでなく、断面構成にもさまざまな工夫がみられ、都会での多様な生活に対応すると同時に誘発する力を持った提案である。
今後の商品住宅の開発にあたっては、事業枠組みに対してブレークスルーを継続し、都市や環境への貢献や新しい生活スタイルの提示に積極的に取り組んでもらいたいし、社会や生活者とともにGマークも応援していくことが出来ればと考えている。(審査ユニット長 芦原 太郎)