2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A04:パーソナルコンピュータおよび関連商品等

安次富 隆

プロダクトデザイナー


私たちは初めて出会うモノの善し悪しを、見た目の好き嫌いで判断しがちです。しかし、当ユニットの商品は、機能もすぐれていなければ、ユーザーを満足させることはできません。そのため当ユニットでは、機能性と美観のバランスを特に重視し、評価しました。ここで言う機能性とは、操作性やメンテナンス性なども含んでいます。 今年度の見た目の傾向としては、ピアノ・ブラックのパーツを使った商品が多く見られました。成型技術の進歩もあり、精度も高く美しいのですが、手が触れるパーツに黒色の光沢素材を使用すると、すぐに指紋で汚れてしまいます。汚れが付きにくくするか、汚れを拭き取りやすくするか。些細なことですが、このような機能性と美観を同時に満たすための試行錯誤が、当ユニットの商品に求められていると思います。
サムスン電子株式会社のプリンタSCX1470、SCX1650、ML1630、SCX4500は、道具に必要な最低限のパーツを組み合わせた単純明解な立体構成が特徴です。機能的な新しさはありませんが、材料や色の選択、本体背面のデザインやパーティングラインの位置といった細部に至るまで丁寧に考えられており、機能性と美観が両立した高品質な商品に仕上がっています。
このように、機能的な新しさに依存しなくても、デザイナーの力量次第で機能性と美観が両立した魅力的な商品はデザインできますが、時代を先導するデザインを求めるとなると、技術的なサポートが必要です。特に当ユニットの商品は、日進月歩のデジタル技術を応用しており、今後の社会や人の役に立つ商品を創出するためには、機能性と美観の両立だけでなく、技術を先導するデザインを提案する必要がありあます。過去の良いスタイリングをトレースするだけでは、技術を先導することはできません。デジタル技術は柔軟性が高く、変幻自在です。どのようなカタチにも合わせることはできますが、技術は目標を達成する手段ですから、技術が先行してカタチを決めるということはありません。未来のカタチを示すことができるのはデザイナーしかいないと言えるでしょう。
そういった視点で今年の商品を見てみると、デザインが技術をリードして新しいカタチを生み出したと推察される事例がいくつかありました。
ソニー株式会社のVAIO VGX-TP1Sは、円筒形という全方位的なカタチによって、パソコンを「収納されるカタチから飾られるカタチへ転換」しています。
株式会社理想ベックのスキャモは、スキャンする対象物をスキャナに載せるのではなく、対象物の上にスキャナを載せるという逆転の発想によって、立体物をスキャンできる新しい道具です。サンワサプライ株式会社のUSB-HUB234シリーズの、一本のケーブルが枝分かれしただけのカタチは、ハブは箱形であるという常識を覆し、習慣的に考えられてきた道具の見た目に変化をもたらしました。
これらの3商品には、特に際立った技術的な革新は見られません。しかし、ソニーVAIO VGX-TI1Sの円筒形状を実現するためには、四角形が常識となっている基盤やディスクトレーなどのパーツ類のカタチやレイアウトを工夫しなければなりませんし、理想ベックのスキャモでは、据え置きのスキャナでは考える必要性がない重量バランスや、パソコンに依存しない操作性を考えた設計が必要だったと思います。サンワサプライのUSBハブのケーブルが枝分かれしたカタチは前機種にもありました。しかしケーブルの接続部は箱形です。234シリーズのように接続部を球体にするためには、技術的な苦労があったと思われます。これらの商品の開発は、設計的にも面倒で、コストもかかったに違いありません。そのようなリスクを乗り越えて商品化できた理由は、これらの商品が、ブロードバンドを介して人と人、人とモノ、モノとモノが縦横無尽につながってきている環境と、誰もがクリエイターであり情報発信者となってきている時代性を的確に捉えた提案だったからでしょう。
このような意欲的な商品がある一方で、ブロードバンド/ユビキュタス社会の中心にあるはずのノートパソコン類のデザインが、薄型化、軽量化、装飾化といった目標に均一化してしまっている点が、気になるところです。「ノート」と呼んでいること自体が、柔軟な発想を妨げているのかもしれません。
当ユニットが扱う、PC及びその周辺機器は、好むと好まざるとに関わらず、これからの情報過多の時代を能動的に生きてゆく上での必需品です。それゆえに、機能性と美観のバランス以上に、未来を拓く道具づくりにデザイン力を発揮していかなければならないと思います。(審査ユニット長 安次富 隆)