2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A07:家庭用家具、住宅設備等

益田 文和

インダストリアルデザイナー


審査対象領域の広範さ、対象商品の多様さ、評価軸の立てにくさ

このA07ユニットは、建築構造部材からクラフト製品まで実に多種多様な製品、商品、サービスが集まっている部門である。インテリア空間という隙間に建築とプロダクトのカテゴリーに収まらないものがすべて集まってきたような状態で、審査対象数は今回の全ユニットの中で最大である。
審査対象のあるものは基本性能やその物理的効果を評価されることを期待しているようだし、あるものは新しいアイデアによる利便性を、別のあるものはアイデアの新しさや表現形式の面白さを、あるいはデザインの取り組みに対する評価を期待している、といった具合で、とても部門に共通の評価軸を設定することは難しい。ましてや、グッドデザイン賞のすべての応募案件に一律の評価基準で済まされるはずもない。したがって公表されているクライテリアを下敷きにしつつ、審査対象一つ一つに対して審査委員全員が議論し、審査要件を整理し、そのつど評価ポイントを明らかにしつつ慎重に審査を進めていった。同じカテゴリーの横並びの商品群を相対評価するような審査とは明らかに質の異なる審査プロセスを踏んでいる。

デザインの本質的な価値を問う

多様な評価軸を立てながら最適な評価に臨む過程で、微細な形態表現の違いを強調することで競合製品との差異化を図ったり、不必要な利便性や経済性を強調したり、製品にまつわる雰囲気の演出や流行に相乗りすることで市場の歓心を得る、といったデザインに付帯する瑣末な要素は評価の枠の外に追いやられる。デザインのより本質的な価値、社会や暮らしにとっての必要性や必然性、これからの暮らしや社会をデザインする上での意義に議論の重心が置かれることになった。

審査過程での様々な議論

商品が社会の中でどうあるべきか、という議論が日本の社会に少ない。暮らしぶり、ライフスタイル、地球全体を考えてのデザインといった視点をもつことをこの部門として提議したい。文化としてのデザインをどうとらえるか。「売れ線の」意匠を追いかけるというレベルはとうに超えているはずだ。
このユニットで近年応募が増えているセキュリティ関連商品をどう評価するか。商品ジャンルとしては一見進化しているようだが、近い将来、各社の防犯カメラが審査会場に勢ぞろいするような審査風景はご免だ。社会的に考えれば、むしろ防犯カメラを取り付けなくても良いという方向での提案に期待したい。デザイン分野においては、こうした本質的な議論を避ける方向がみえる。例えば、カッターナイフで切っても切れない子供服をグッドデザインとして評価するということはどういう意味をもつものなのか、といった議論が今後は必要であろう。
住宅設備では、ビルトイン型はこのセクション、単体の冷蔵庫は別セクション、という状況はおかしい。機能を中心にみるか、使い勝手を含めた全体との取り合わせを中心にみるか、という視点からすれば、冷蔵庫を取り込んだキッチン全体での評価ということはありうる。暮らしのしつらえ、調度品といったことで評価したい。個々の商品以上にその関係性といった上位概念のデザインに注目したい。

また、グッドデザイン賞全体として、表層的なデザインに偏重しそうな気配を感じる。暮らしぶりといった、あいまいな領域のプロダクトこそが日本の真骨頂だろう。この実体がとらえにくい空間という対象を扱うセクションから、全体のかみ合わせを再構築する磁力をもった新デザイン領域を生み出していくことを考えたい。

二次審査でのプレゼンテーションについて

二次審査と一般公開イベントであるグッドデザイン・プレゼンテーションが近年では併催になっているため、審査用のプレゼンテーションと展示用のディスプレイとが混在している状況である。評価がイベント用の演出に影響を受けないよう、ノイズを差し引いて審査することはある程度可能だが、逆に審査に必要な基本的な情報が伝わらないようなディスプレイをすることによって審査を不利にしているようなケースも見受けられる。これは本末転倒であるので応募者は今後よく考慮されたい。 (審査ユニット長 益田 文和)