2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

B. 建築・環境デザイン部門
B03:環境デザイン

田中 一雄

環境・プロダクトデザイナー


グッドデザイン賞は様々なデザイン行為を対象としたものであり、その対象は実に多岐にわたる。そのなかでも、環境ユニットは全体像をつかみにくいものの一つであろう。近年応募が増加している住宅団地の環境計画や、マンション外構などをはじめとし、公園、広場、商業施設、各種公共施設、公共交通機関、道路、橋梁、ストリートファニチュアなど広範にわたり、それらを共通の価値基準で判断することには限界がある。本ユニットにおいては、これらの対象に対して、「今日のグッドデザイン」という観点から総合的に審査をおこなったものである。

■環境ユニットにおける「今日のグッドデザイン」

環境ユニットにおいても、グッドデザイン賞の基本となる三つの視点は共通である。それは、「良いデザインであるか/美的、機能的に一定基準を満たしているか」「優れたデザインであるか/新たな視点やソリューションが考えられているか」「未来を拓くデザインであるか/人類や社会の次なる方向性を示唆するものであるか」という三点である。
こうした基本的視点に加えて、環境ユニットという特性から「人とのかかわり」「プロセス性」といった点が求められる。環境ユニットの対象は、単品のプロダクトではない。それは、時間的空間的広がりのなかにある場である。環境あるいは空間は、人を内包する場であるとともに、そこに展開する生活行為との関連が不可欠である。その場の成立にどのような人が関与し、出来上がった空間を誰が享受しているのか。さらには、どのような人づくりが行われたのか等々を考えなくてはならない。こうした「人とのかかわり」が環境デザインには必須なのである。
また、環境デザインの成立には、多種多様の制度的課題や法的制約が存在する。こうした障壁をどのような「プロセス」によって乗り越え、新しい価値を生み出したかということも重要な評価点である。これらの点から考えると、自ずと美的オブジェ性のみがグッドデザインでないことが明らかになってくる。
これらの「人とのかかわり」「プロセス性」という視点が、環境デザインにおける『今日のグッドデザイン』であるといえるであろう。こうした視点を本年受賞となった中で見れば、次の二点に『今日のグッドデザイン』としての特性が顕著に表れている。
一つは、地域の市民・行政・専門家が一体となって景観形成に取り組んでいる「黒川温泉の風景づくり」であり、もう一点は、従来不可能と考えられた既存公共施設の解体再構築を市民の熱意で達成した「木野部海岸整備事業」である。このような視点は、グッドデザイン賞全体から見れば特殊なものに位置するだろう。しかし、環境ユニットの今後の展開においては欠くことのできない「価値基準」として考えていく必要がある。

■カテゴリー別の特性

環境ユニットの中で個別のカテゴリーが明確に存在しているわけではないが、主な領域別の傾向としては以下のとおりである。

・住宅団地、マンション外構等

競争の厳しい世界でありデザイン的レベルの高いものが多い。それだけに単なる美観を超えた、周辺環境との連携性や生活創造などの提案性が必要である。審査資料においては美麗な写真が添付されているが、現場を訪ねると「人の存在」を感じない場があるなど、生きた場としてのデザインが求められる。

・各種施設及び外構等

本年の応募状況を見る限り際立って突出した作品を見出しにくかった。あえて言えば、地球温暖化対策に配慮した計画などがその中では評価が高かった。また、商業施設類においては、テナント入居後の運用状況が悪く、本来の意図が生かされていない場合も見受けられた。今後は、時間系の中で運営プロセスデザインまでの計画が求められるだろう。

・公園、広場等

残念ながら本年は低調であり、新しい提案性のあるものが見出しにくかった。ビオトープの提案なども数点あったが、既存を超える視点が見出せなかった。今後は、ビオトープの存在意義を超える価値の提示が求められるだろう。

・土木施設、ストリートファニチュア等

基本的に応募点数が少なく、かつデザインレベルが低調なことも残念であった。環境ユニットあるいはグッドデザインの対象として認識されにくいことも考えられ、今後に課題を残した。

■来年度の飛躍を願う

率直に言って、本年は総合的に優れているというものが見出しにくかった。大手企業が関与した作品は手堅くまとめられていたが、未来を拓く価値にまでに至るものが少なかった。反面、市民やNPOからの応募の中に、新しい方向性を示唆するものが散見されたが、造形デザイン的な修練に欠ける点が惜しまれた。環境デザインにかかわるデザイン賞は、グッドデザイン賞以外にも存在している。そのなかでグッドデザイン賞は、人になるほどと言わす新たな『しくみ』の提示がなされているかと同時に、何らか人を惹きつける『魅力』を有しているかという二点の両立が重要であろう。来年度においては、こうした総合的に優れた価値を有する作品の応募を多数期待したい。(審査ユニット長 田中 一雄)