2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A03:携帯電話、モバイル関連、カメラ等

村田 智明

プロダクトデザイナー


以前、モバイルのユニットを担当し、3年ぶりにこのモバイルユニットに帰ってきた。当時は携帯電話のインターフェースに対して、各社、様々な試みをしていたため、操作性にも大きな差異があり、審査範囲もGUIが操作手順に沿っているか、理解しやすいか、美しいか、バグはないかと、実機稼動を取り寄せては打ち込みを行い、外観だけではない評価基準を設けていた。しかも、これには、多大な時間外審査とメーカーの協力が必要とされてきた。外観に関しても、次々と始まる新しいサービスや機能に対応するべく、新規性の高いカタチが目白押しで、夜遅くまで審査が続いていたように覚えている。
そして2007年、僅かな間にこのモバイル部門は大きく状況が変化したことを先ずお伝えしなければならない。それは、国内エントリー商品のかつての勢いが消え、代わりに海外エントリー商品がデザインを伴った商品力を見せ付けたカタチとなった。増え続ける海外エントリー商品と国内エントリー商品との比較によって立証できる様々な価値観の違いは、マーケットをワールドワイドに捉えているかどうかに呼応している。携帯独自文化で半ば、鎖国をしながら国内市場を守っている日本に対して、ネットのフルブラウジングが可能なスマートフォン世代の海外メーカーは、マーケットが小さいわりに規制が多い日本にはむしろ興味がないといったところだろう。日本で売らない商品だけど、グッドデザイン賞だけは受賞していく数々の商品。ユーザーにとっては、鎖国の外側を覗いてびっくりしている状況がグッドデザイン・プレゼンテーション(GDP)の会場そのものであった。この傾向は、携帯電話だけに留まらない。キャリアの縛りの無いデジカメ、ビデオカメラなどすべてのモバイル商品においては、すでに販売を前提にしているのである。
また、この比較によって、あらためて日本のモバイル商品の文化性を知ることができた。よい点としては、多色展開や表面処理の加飾により、パーソナリティに対応するバリエーション文化を展開できたこと。実際、1機種で3色以上の展開をしているのが慣用的で、この点は海外品より細やかだ。しかし、逆説的な言い方をすれば、世界一の高齢化民族にもかかわらず、大人っぽいデザインが無く、デザインが加飾によって幼稚化していることも挙げられる。これは、かつての画期的な構成の変化を望めなくなった筐体に対して、表面的なデザイン処理での効果を求めた結果だと推測できる。成熟がデザインを袋小路に追い込んでいる所以である。
それに対して、海外商品はバリエーションが少なく、ブラック、シルバーがメインの大人びたテイストがグローバルモデルとして世界で流通している。これはパーソナリティ対応能力が低く選択肢が無い反面、メーカーにとっては極めて効率的である。また、かつての日本の得意芸の軽薄短小を実践していて、そのためには、余分な機能を減らしてでもデザインの実現を優先させている商品が幾つもある。
すでに模倣という概念は消え去り、アジアは世界というマーケットに向けて、独自のスタイルをデザイン先行型商品開発で成功を収め始めている。この違いが、今回の展示会ではっきりと感じられたことは、私以外の方々にも同様に伝わったのではないかと思う。
この流通形態の違う状況下で、我々審査委員は公平な審査を行うにはどうしたらいいのか、日本国内で流通しないワールドモデルの外観、GUIをどう判断するかで迷った。GUIの作り込みにおいては日本のデザインは3年先を走っていて、海外商品にはランチャー画面の美しさやデフォルト選択などの細やかさは無い。でも、そっけないGUIでもこれでいいとする海外の文化性を否定するべきではないのではないか。使われる国ごとの文化性を鑑みて、GUIには立ち入らないことにした。同時に日本のGUIもソフト的に成熟し、GUIルールが共通認識化したことでバグ探しを終了することにした。このことから、本年度の審査では3年前のようなGUIも対象とする審査は避け、外観デザインを主体とする審査に切り替えた。
ここで、このGDPの意義というものをあらためて考えたい。年に一度、同じジャンルの商品が国境を越えて集まってくる。そこには、理解しがたい作法や文化も存在し、それを理解しようとして、相手の置かれている状況を探り、共感が生まれる。また、逆に日本が特殊な文化性の国民であることも比較によって理解することができるのである。今、我々のものづくりDNAが目覚めるには、外を俯瞰する許容力が必要ではないかと思う。そして、「エンジニアリングデザイン」という言葉。デザイン以外の部署がデザインを学ぼうとする姿勢ではないかと思う。既にアジアでは、デザインはデザイナーという枠を超え始めているのである。(審査ユニット長 村田 智明)