2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A10:オフィス、店舗用品什器等

澄川 伸一

プロダクトデザイナー


時代に応じた「キーワード」というものがある。その時代の潮流にのった新しいデザインの萌芽を目の当たりにできることが審査の楽しみでもあり、そういう意味で今年は「個人情報の保護」に関する新しいデザインが多く見受けられた点が印象的だった。ダイアル錠と印鑑を組み合わせた印鑑、より家庭内での普及を目指した簡易シュレッダーなどがそのいい例だ。小さいサイズのアイテムに関しては、さまざまな工夫や進化があり、時代の変化を読み取ったデザイナーやエンジニアの意気込みが感じられた。しかしながら、大型のオフィスシステムになると現在の市場が求めているものと企業の作るものとの間に何か距離を感じてしまう。オフィスチェアやLEDライト、昇降式会議テーブルなど、単体ではとても優れたデザインのものが出てきているのに対し、これらを統合したといえるシステムデザインではなぜか問題が多く残されているのではないか。「何でこうなってしまうのか?」という素朴な疑問を覚えてしまうものが、少なからずあった中、審査員が全員一致で「いい」と感じたのが、FURSYS社のオフィスシステムだった。これは、実際に働く人にとって作業しやすいアイデアを集積した結果であるようだ。また、色彩計画全般に関しては、サインペンから大型設備まで共通して、もう一度本質をよく考えたほうがいいのではないかと思われるものが目立った。ユーザーが本当に望む色、質感かどうかを再考してみる必要があると思う。店頭で目立つデザインが売れるという時代はとっくに終わっている。 以下、ジャンルごとの概要である。

文具/オフィス雑貨

このジャンルのアイテムは多岐にわたるため、主要となった判断基準を列挙してみた。

1.道具としての使い勝手上の機能の進化の度合いを重視。過去受賞商品の多少のグラフィックチェンジは進化ではない。
2.機能的に素晴らしくても、「美しさ」、まとまりに欠けるものは受賞を見送った。
3.機能と美しさが一定水準にあっても、価格が適正価格を大幅に超えたものは受賞を見送った。今回、価格設定も重要な判断基準とした。

これらとは逆説的に、使いやすさの創意工夫で道具として大きく進化したものや、環境に優しい素材の活用、廃棄時の分別方法、機能を維持した上での大幅なコストダウンの成功などが受賞の基準になっている。筆記具や印鑑などは、機能面ではいろいろと工夫が見られて非常によかったのだが、色とグラフィックでは欧州のもののような落ち着いたものがあってもよいのではないかと感じた。色とグラフィック表現でせっかくのユーザーの幅を狭めている気がしてならない。

オフィス家具・設備

いまだにアーロンチェアの影響の残っているオフィスチェア業界であり、メッシュ素材からの次の一歩がなかなか踏み出せない企業が多かったのが残念。その中で群を抜いてすばらしい評価だったのが、イトーキの「スピーナ」と女性ワーカー用の「カシコ」である。実際に座ってみれば、その説明の必要がないほどの完成度だ。細部を見れば見るほど、膨大な工数の集積であることが感じられる久しぶりの傑作である。

また、アーユルチェアという坐骨で座る椅子も高く評価したい。本当に日本人の体型、作業姿勢を分析して設計された新規構造のイスであり、今後の進化におおいに期待したい。高輝度LEDライトもその特性を活かした、すっきりしたデザインのものが増えてきており、水準の高さを感じた。時代の「透明性」という点では、見えるけども遮音性は確保というオフィスでのニーズを高次元でまとめていたガラスパーテションが印象的であった。残念なのは大型のオフィスシステムや役員用オフィスシステムである。最初にも記したように、このジャンルでは、市場が求めているものと、企業が送り出しているものの間に大きなギャップがある。雇用スタイルや、PC作業中心への配慮、職場環境の流動性など、この5年での変化はとてもダイナミックであり、それらの変化をもっと多様な観点から検証してみるべきではないか。

店舗用品・機器

POS端末に代表されるレジスター周りの機器では、背面処理、ケーブル処理など細かい配慮がしっかりなされたデザインが多く、とても好感がもてるものが多かった。店舗用照明なども、どれも完成度が高く、オリジナリティーも感じられて水準の高さを認識した。また、パン焼きの業務用オーブン自体をひとつのディスプレーとして巧くまとめたデザインがあり、集客力と安心感を満足させ、他業種に展開できるだけの魅力を感じた。手打ち蕎麦的な作り手側の「透明性」といったものも今後重要になってくるであろう。

ユニット全体で感じたのは、同じメーカー内であってもデザインのレベルの格差が開きすぎでいることである。ずば抜けていいものもあるだけに、そのほかのものが足を引っ張ることで企業全体のイメージを下げているのは残念で仕方がない。セクショナリズムの弊害が眼で見えるデザインに大きく影響を及ぼしてはいないか。今回、小回りの効く組織ほど、柔軟で的確な商品が開発されていることを実感した。(審査ユニット長 澄川 伸一)