2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A11:業務用コンピュータ、医療機器等

日高 一樹

デザインと知的財産権に関するコンサルティング


本ユニットの医療機器、業務用コンピュータ、オフィス機器、アミューズメント関連機器などの商品は購入動機や使用態様において一般の消費財と顕著な相違点がある。例えば医療機器の場合、医療関係者と患者など、直接、間接の商品ユーザーが複数存在すること。個別機器のデザイン性と機器相互間のデザイン調和性、病院空間との調和性など複数要素が絡み合うパブリック性を有することが特徴的だ。またこれら商品購入に当たっては、ほとんどの場合ユーザーが直接関与しない。そのため市場の反応が明確な一般消費財に比べ開発側のデザインの位置づけ、評価が不明確になりがちな点も特徴の一つ。そのためこの分野のデザイン開発では、フィールドワークによりデザインにおける課題を抽出するとともにその評価を取得することが不可欠となる。すなわち本ユニットの商品はユーザーの不特定性に起因してユニバーサルなユーザビリティ、信頼性、品質感、メンテナンス性、清掃性、空間環境調和性などの条件がシビアに求められるが、これら与件を積極的に開発側に伝える手段はなく、開発側は自ら課題や目標を設定しユーザーの代弁者となってソリューションデザインを提示することが求められる。一方、本商品分野は一般消費財に較べ競争相手が少ないため、優れたデザインの継続的蓄積は企業のプロダクトアイデンティティを強固に構築、国内のみならずグローバル市場で言語を超えた伝達手段としてデザインは企業価値を高める役割を果たす。以上の今日的評価視点から商品分野毎に概括してみたい。
医療用機器・設備の分野は昨年度からの医療関係者や患者へのユーザビリティ、安心感、信頼性を高めたプロ機器の一般化傾向(理解容易性)がより進化している。この付加価値の高いソリューションデザインは先端医療機器から医療器具の範囲で観ることができ、また大企業から中小、ベンチャー企業までそれぞれの立場で取り組んでいた点が印象的であった。例として、金賞となった乳房X線撮影装置は、日本人女性の特性に合わせた設計、痛みの軽減、受診者に対する安心感、検査技師と受診者とのコミュニケーション、正確な操作、ユーザーに優しいフォルムを具現化。またデザイン開発プロセスでは女性が中心となってこの機器が持つ本質的な問題点を追求し、高度な次元でデザインがまとめられている。開発のお手本となる商品である。中小企業庁長官特別賞の骨鉗子は、医師の立場から従来の骨と骨折固定用板を同時に把持するための骨把持鉗子の問題点を解決した機能的デザインであり、また同賞のベッドスケールは、ベッド設置型体重測定器の問題点を設置しやすさや高さを抑制してユーザビリティを向上させることにより解決、更に計測精度を高めたもので、問題解決型の人に優しい機能的デザインで両者ともグローバルスタンダードとなる可能性を感じさせる逸品である。また新生児ベッドはケアがしやすいようにカゴの間口、高さや角度の調整、四隅グリップ、バンパー機能、緊張緩和作用を考慮した色彩など総合的にデザインされたもので、企業がなすべきデザイン領域の一端を提示している。モバイルクリニカルアシスタントは病院で使用される携帯端末で、ディスプレイ、ブルートゥース聴診器、タグリーダー、カメラなどを装備。医療事故を未然に防ぎ、最適な医療行為を提供する新たな道具の可能性を示している。本分野はデザインの本質的深化が観られ更に発展が望まれる。一方で意味を見出せない形態のモチーフ化も散見され、解決すべき課題やその商品領域の多さを考えると残念な現象である。
業務用コンピュータ、オフィス機器のデザインは概して閉塞状態。この商品分野は本来グローバル競争激化の中でコモディティ化するパーソナル機器とは一線を画する分野である。言い換えれば日本企業が生き残りをかける商品分野の一つではないか。どのような課題解決を成し商品をアイデンティファイさせるか、デザインの役割も大きい。その成功例としてあげられるのがPanasonicの業務用堅牢パソコンシリーズ。保険、銀行の外交員や医師等の屋外業務使用を前提とした業務用堅牢パソコン、工事現場、消防、警察等の使用を想定した最堅牢モデルなど各モデルの用途を明確に位置づけ、想定した使用シーンに求められる機能を形態として昇華させている。またラインナップのビジネスパーソナルモデルが普及しシリーズの商品ブランドも確立された。一般のノート型パソコンのデザインが画一化する中、このパソコンはその位置づけを明確化し、継承的デザインの採用により存在感を高めたデザイン戦略の成功例とも言える。本分野のデザイン開発にあたって、現場は他社動向を観る前に市場は何を欲しているのかユーザーの目となることが肝要だ。企業価値は商品価値の連鎖形成により創出される。その意味でデザインの意志が問われている。(審査ユニット長 日高 一樹)