2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査総評

A. 商品デザイン部門
A09:作業工具、産業機械等

山村 真一

インダストリアルデザイナー


概要

商品デザイン部門A09ユニットは、日本が得意とする「ものづくり」の下支えをするための「ものづくり」を評価するグループである。おもにプロシューマー向けの道具が審査対象であるといえるが、ルーペでしか見ることができない微細なチップから、手のひらにおさまる精密な工具や測定器、試験機器や搬送機器、マシニングセンターなどの工作機械やショベルカーのようにトレーラーやクレーンがなければ搬入展示ができない巨大システムにいたるまでの幅の広さ持っている点が特徴だ。
たとえば乗用車や携帯電話のような華やかなイメージはないが、一点一点を子細に観察していくと、それぞれの精緻なしくみやシステムデザインに驚かされるといった具合に、審査対象は、いずれも一見してその機能や特徴を理解できるものではない。そのため審査は情報収集に時間を費やし、特に二次審査では審査対象現品を前に一点一点細部にまで至る議論を繰り返した。特に大型の機器やシステムは、輸送や搬入のコストが大きいためか、パネルや映像のみでの審査となるものが意外に多く、このため審査は困難を極め、特別賞の候補対象については、すべて現物での確認を基本とすることで審査が進められた。また、商品ジャンルが成熟期にある審査対象に対しては完成度の高さを、発展期にある審査対象については、社会やマーケットにおける役割と可能性を強く意識して議論を進めるようにした。

デザイン評価

このユニットの審査対象は、工場内部や作業現場、試験室、研究室で専門のオペレーターが管理、操作するものが多い。このためか、技術志向が強くなりがちで、操作系のインターフェースデザインが、ともするとおざなりにされがちだ。
最近の製造現場では、検査や組立時のミスを防止することが一層強く求められ、オペレーターのローテーション等で、より多くの人々がその機器の操作、管理にたずさわり始めている。また、女性や外国人のオペレーターやドライバーの増加、さらに、マーケットの国際化による要因も加わって、より多様な体形に対応したドライビングシートやより分かりやすい操作インターフェイスが求められ始めている。これらの現状を鑑み、表示部分の明解な表現や操作キー類のレイアウト、操作ディメンションの幅広い対応など、機器の取扱いやすさを向上させるデザイン、いわゆるユーザーインターフェイスデザインについては特に時間をかけて検証していった。もちろん、専門性の高い環境における使用機器としてのカバリングやカラーリングデザイン、また工業デザインとして合理的な最適解を導いているか、さらに、その使用される環境との調和等についても検討を行っている。
その結果、2007年度の09ユニットは、応募数149点に対して56点を2007年度グッドデザイン賞受賞とした。
なかでもとりわけ評価が高かったのは次の通りである。金賞候補として、36基の人工衛星の72のユニバーサルチャンネルを受け、1mmの精度で測定を可能とした位置測定器「GPSレシーバー トプコンGR-3」、インタラクションデザイン賞候補として島津製作所のPC対応型単眼ヘッドマウントディスプレイ「データーグラス3/A」である。また一方で、中小企業の躍進、活躍も目覚しい。特筆すべきは、中小企業庁長官特別賞候補に選ばれたエム・システム技研によるモジュラー型のデバイスシリーズであり、5.9mmの極薄信号変換器や世界最小寸度のリモートシリーズは、極小のリミット設計であるにもかかわらず、驚くほど操作性に優れ、その精緻な製造が見事にシンプルで明解なデザインにまとめ上げられていた。RoHS対応の鉛フリーや、WEEE対応の基板分離設計など、中小企業が遅れがちな環境対策も万全であり、エコデザインとしても優れた一品であった。

今後の課題

まず、本年度の当ユニットの審査では、機器や工具類に施された過度な装飾が散見されたことが気になった。この傾向はここ数年来、当ユニットにおいて議論が続けられているが、工具類や計測器に機能とは相関性のない過度なカラーリングや単なる装飾としてのデザインが増えつつあるように思う。この現象は、営業や販売からの強い要望によるものだろうが、やや長期的な視点からの企業戦略デザインの面でも、ブランドイメージ形成の面からも一考を要するテーマではないか。
次に、世界に誇れる日本の技術としてロボットが挙げられるが、この類の応募対象が意外に少ないのが気になるところである。最近、生産技術を飛躍的に高めるロボット類も多く、製造現場では世界に誇れる素晴らしいデザインのものが多く使われ始めている。これらの応募数の増加は、今後期待したいところである。
また、先に触れた大型機器や生産システム等の応募点数は、今後増加することが予想されるが、これらについては、審査員が出向いての現地審査等のシステムを考える必要もあるかもしれない。しかし、審査後の会場を公開するグッドデザイン・プレゼンテーションにおいて、大型ショベルカー等の前で得意気に記念写真撮影に興じる多くの子供たちがいたことも、一筆加えておきたい。(審査ユニット長 山村 真一)