2007年度受賞結果の概要
 

委員長メッセージ

2007年度グッドデザイン賞 審査委員長

内藤 廣


成熟化と展開力

グッドデザイン賞という制度が発足して五十年が経過し、今年は五十一年目という新たな一歩を踏みだす年です。この賞で感じるのは、先人達の積み上げてきた成果の大きさです。この賞は、戦後の経済復興から高度経済成長を含め、常にその時代の経済活動や文化活動のエッセンスを一般へと橋渡しする役割を果たしてきました。
この賞が世界に誇れるものは、過去に選ばれたグッドデザインの集積とそれらを的確に選び出してきた審査員達の眼力と先見性です。この伝統を受け継ぎつつ、今年度はいままで以上に審査員間の議論を活発にしていくことにしました。高度情報化社会という新しい時代に対応するためには、審査の質をより高い次元に引き上げる必要があります。そのためには、プロセスの透明度を上げ、デザインという言葉を支える言語環境を鍛えることが不可欠です。まだ至らない所は多々ありますが、審査経過や審査講評を概観すると、その成果はあがりつつあると思っています。

今年度の審査結果を見るとふたつの流れがあったように思います。
まず、情報技術の進化が「成熟化」の過程に入ったという印象です。情報技術そのものの先進性が後ろに隠れ、その製品を手にして使う側への心理的な配慮が重視され、それがデザイン化される、という傾向です。要するに、デザインが大人になった、ということです。これは、デザインに若さがなくなった、と言い換えることもできます。「成熟化しつつどのようにすればダイナミズムを失わないか」ということがこれからのデザインの大きな課題となるのではないかという予感がします。
もうひとつの流れは、デザインの成熟とは異なる傾向です。海外からの応募、とくに韓国企業の作品に元気があったことが印象に残りました。デザインを企業戦略の根幹に据え、ダイナミックにユーザーの心をつかんでいく「展開力」には目を見張るものがありました。こちらには、青年の明るい活力とみずみずしさがあります。
「成熟化」と「展開力」、それぞれ質の違うこのふたつの流れは、相互に刺激し合い、新しいデザインを生み出していく原動力になっていくでしょう。これを踏まえて、わが国のデザイン界においても次の時代をにらんだ明確な戦略が打ち立てられていくことを期待します。