2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A08:自転車、バイク、乗用車等

奥山 清行

インダストリアルデザイナー


今年度からA08ユニットは、これまでの「自動車デザイン及び周辺機器」といった性格付けから、「モビリティーデザイン」即ち人間の移動と社会との関わりを核として、各商品のデザインを位置づけることとした。
自動車、電車にしろ自転車にしろ、それ自体は本来移動のための道具であり、それぞれ単体では全く用を成さない。インフラが整備された中で相互に結びついて始めて機能する商品である。環境問題や都市交通渋滞で本来の機能が果たせなくなって来た今日、それぞれの道具の今後在るべき道を探り、ポジショニングを再調整するのはデザイナーのみならず、商品開発に関わる者全てに課せられた宿題であろう。
また技術の発展に伴って、公共交通機関と、個人交通機関とが一体化されつつあり、今後数十年かけて新たな混合移動手段が生まれることが予想される。それに従って周辺機器の意味合いも大きく変わるであろう。当然の様にそれら多種商品の実際の使用状況においての連続性や使いやすさを検証する必要がある。
しかしながら、残念なことに業界という名の大きな村社会の中でしか物事を判断しない開発者たちに、社会や他業種との関わりを再定義することを期待するのは荷が大きすぎることが明らかになってきた。グッドデザイン賞とし
ては、これらの道具の使用者や非使用者に関わらず、社会を構成するあらゆる人々の立場に立って、大局的にデザイン判断をして行きたいと考えている。 もちろん、例えば自動車という前世紀が生んだ最大の商品と産業の場合の様に、各分野の特殊性を無視することはできない。他の成熟商品群に見られる現象と同じく、機能的差別化が大同小異の様相を示す中で必然的にデザインのエモーショナルな側面が強調されるのは当然であろう。平たくいえば、好き、嫌い。嗜好性を強調したスタイリングの要素が増すことである。また、そういった場合、他商品やそれをくくる商標との位置づけが重要になってくるから、いわゆるブランディングの要素も重要であろう。
しかし、当ユニットとしては、必要以上に商品間の関係や、業界内独特の専門知識を必要とされる判断まで、立ち入って検討することを良しとしない。
基本はあくまで素人判断である。
一般の目から見て判断できずに、本来の意味で社会の役に立つとは思えないのだ。まず使い手がどう思うか。その使っている状況を周囲の人はどう見るか。造り手ではなく、使い手、買い手側に立った判断を心がけていきたい。
全くの私見になるが、現代の日本社会は特に産業界に対する必要以上の保護と、造り手側の勝手な理屈がまかり通って、顧客の犠牲の上に成り立っている。バブルとその後の暗黒の十年を作り出したのは他ならず我々で、ふと気がつくと誰しも自らの手元には何も残っていなかったではないか。造り手即ち他業界の買い手。皆繋がっているからこそ、皆で豊かになっていくしかないのだ。
そういった客観の目で、大局的に今年度の当ユニット応募商品を見た場合、やはり前述の特殊性に頼り切った商品が多い。ユニットとして移行期にあった今年度としては予想された結果ではあるが、それでも後世に残る商品が多く見受けられたとは言い難い。
新規の機能性を呼び込む技術革新と、その壁は他ならぬ経営者と開発者自らが創り出すものだ。顧客は、見せられて初めて望んでいたものを知る。見せてあげるのは開発者の役目だ。自ら創った壁を乗り越えて、初めて皆が望んでいた画期的商品になり、結果としてそれが歴史に残る。
当ユニットの新しい位置づけと共に、応募商品のエントリーカテゴリーも徐々に変わっていくだろう。この機会を利用して、ぜひモビリティーに関する新しい提案を期待したい。 (審査ユニット長 奥山 清行)