2007年度受賞結果の概要

2007年度審査委員/審査講評

2007年度グッドデザイン賞審査講評

A. 商品デザイン部門
A02:日用品、スポーツ用品等

左合 ひとみ

グラフィックデザイナー


先端テクノロジーがしのぎを削るという場ではない。日用品、雑貨からスポーツ・アウトドア・ガーデニング用品などを対象とするこのユニットの商品が、グッドデザインとして評価されるために最も必要なこと、それは、生活者が抱えている問題の高次元での解決である。審査を終えて感じた全体的な印象も、受賞作の多くが日常の細部にわたる問題点と誠実に向き合って答えを出し、生活文化の向上に貢献していることであった。
たとえば、電球、懐中電灯などのカテゴリーでは、エコロジカルなLEDライトに移行する市場を反映した応募作が目立った。長寿命で交換がほとんど不要、かつ省電力であるLEDは、光源の新しいスタンダードになりつつある。インテリアのライトとして置いても美しい無印良品の「LEDポリカーボネイト懐中電灯」、対照的に"普通"のたたずまいを目指したパナソニックの「LED懐中電灯」など、コンセプトの多様性も見られた。
金賞を受賞した「eneloop universe products」として括られる充電式の製品群は、いかなる視点から見ても傑出していた。繰り返し使う「充電池」として、企業のエコロジー思想を基盤とした革新的技術力と、それを表すコミュニケーション力を高く評価されたeneloopの新たな展開である。ひとつは、太陽エネルギーで充電池を充電するという、クリーンエネルギーの理想形を実現した象徴的な商品、「ソーラー充電器セット」。太陽の高さによって2段階に角度が変えられるピラミッド状の形が機能的で美しい。USB接続による充電池の充電と外部機器への出力を可能にした「USB出力付充電器セット」、使い捨てないカイロ、「充電式カイロ」、既存の電気あんかのソリューションとなるコードレスの「充電式ポータブルウォーマー」。いずれも地球環境に配慮する企業姿勢を高い次元で実現した発明性に富む製品群であり、ユーザーにコンセプトを伝えるための然るべき姿をしている。企業ブランドの再構築を可能にするデザインという観点からも、高い評価に値するプロジェクトである。
近年、機能性に加えてビジュアル面も進化してきた感のある育児用品にも、特筆するべきものがあった。受賞作の2点のベビーカーは、安全や安心の提供だけでなく操る姿を洗練されたものにし、スタイリッシュな男性用子守り帯は、父親が育児に参加する新しいライフスタイルを提案。後者は素材等の検討によっては新ジャンルの確立も期待できる。
開発に取り組む姿勢に好感が持てる哺乳瓶も、乳幼児向けの製品でありながらファンシーな要素が抑えられていて良い。機能面での問題解決が特に鮮やかだったのはパンツ型おむつである。2つのキャッチポケットを付けることで大小の便を分けることに成功し、この分野に革命を起こした。少子化問題が取り沙汰される現代、育児生活を底上げするデザインが社会を動かす可能性もあるのではないだろうか。
スポーツ用品では、ユーザーのポテンシャルを高める目的が明解で、外見にも主張として表れているものが評価された。応募作の多かったシューズに於いても、良いものには曖昧さが微塵もない。速いだけでなく美しいボディラインで泳ぐための水着、水流と一体化するためのスイミングキャップなど、明解な目的は優れたデザインを生む。
2本のポールで自立するターブや小型のダッチオーブンなどの新しいアウトドア用品には、ユーザーの創造性を誘発し使い方を無限に広げる可能性も感じられた。次世代のアウトドアライフへの提案性に富んだデザインである。
伝統的な素材、技術を生かしながら、デザインによって現代のライフスタイルに合う商品開発をしようとする動きは昨今の地場産業に多く見られるが、成功している事例ばかりではない。そんな中で、「てぬぐい本」と「漆の名刺入れ」は発想から着地までのレベルが高く、伝統産業活性化のモデルケースになり得ることだろう。
一方、「京の仏壇」は漆や蒔絵といった伝統的技術をもとに、今日の生活に適した仏壇のあり方を提案する試みであるが、現代の仏壇としての設計やディテールの表現方法について、最後までディスカッションが繰り返された。優れたデザインの参入が不十分の分野であるだけに、この製品の出現による今後の発展に期待したい。
交換不要の電球、使い捨てない電池、見た目も美しい育児用品。社会が内包する問題の解決につながるデザインは、そんな卑近なところから生まれてくるに違いない。(審査ユニット長 左合 ひとみ)