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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    A. 商品デザイン部門

    A04:パーソナルコンピュータ、ソフトウェア
     
    審査ユニット長  佐々木 千穂

    インタラクション/ヒューマンファクター

     

審査を終えてまず印象深く思ったことは,パーソナルコンピュータとその関連製品が,技術的に進化・成熟を遂げながらも,ユーザーとの共存の仕方が却って難しくなっているのではないかという点である。パーソナルコンピュータとその関連商品と一言で言っても,ユーザーのスキルや嗜好,使う場所や目的は多様化・細分化しており,製品の「立ち位置」を明言することが非常に難しくなっているからであろう。そのためか,最大公約数的な「シンプル」「使いやすさ」をアピールする商品と,スタイリングや特殊性で差別化を図った商品との,二分化の傾向が更に顕著であったように思う。

ある種ブラックボックス化したものを,ユーザーに寄り添える形で提供することが,本ユニットの対象商品に共通して課せられたテーマであろう。「こう使ってほしい,ユーザーとの関係はこうあってほしい」という明確なイメージが作り手の側にある商品が高い評価を得ていたことからも,このことは明らかだ。その好例が,中小企業庁長官特別賞を受賞したイワタデザインの「目にやさしいキーボード」であり,LG電子 (株) のディスプレイ「フラットロンファンタジー」である。前者は,高齢者や初心者にふさわしいキーボードを長年にわたり探求した末,到達したひとつの答えである。一見,何も特別なことをしていないように見える佇まいが,使う側の心理的抵抗を一気に取り払う。そこには,表面的なインパクトに頼らない,作り手の優しい信念を感じる。そして,後者のディスプレイは,最近の時流に倣って「インテリア性を重視しシンプルに」したわけでもなければ「おしゃれな見た目」を表面的になぞったわけでもない。作り手が,ユーザーに共感してほしいメッセージを厳しく突き詰めた結果生まれた,存在感のある,しかし媚びない美しい造形は,新たな方向性の兆しを感じさせた。

例に挙げた商品に限らず,周辺機器やソフトウェアに至るまで,ユーザーにこういう経験をさせたい,という信念が形やインタラクションから伝わるものが,今後更に評価されていくだろう。そういった意味で,常連ともいえる応募対象の中にも,ユーザーを真っすぐに見据え,変更や改良を行い,更に良質になったものが並んでいるのを見て,非常に嬉しく思った。残念ながら受賞を逃した商品の中にも,熱のこもった展示や書類から,込めたかった思いと可能性を充分感じ取れるものがあり,今後おおいに期待したい。半面,同一の応募者の複数の応募書類が全く同じであることは論外である。また一部のユーザーのメリットが他の人のデメリットになるもの,瞬間芸的にはユニークだが,イメージ主導で使うシーンを軽視したもの,一見美しくても作りが悪いものなどに対しても,今後も厳しく評価していく必要があるだろう。

最後に,本年も高いレベルの商品が集まり,海外からの応募も更に増え,彩り豊かな審査対象を前にグッドデザインとは何かを改めてじっくり考える機会を得たことに,感謝したい。(審査ユニット長 佐々木千穂)

 
 

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