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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    A. 商品デザイン部門

    A10:文具、オフィス雑貨・家具等、店舗用品・機器・設備
     
    審査ユニット長  益田 文和

    インダストリアルデザイナー

     

バブル経済崩壊後の混乱期も一段落し,オフィス環境は質量ともに確実に充実してきているにもかかわらず,オフィスという言葉が20年前に比べて魅力的な響きを失ってしまったように思えるのはなぜなのだろう。オフィスというよりそこでの仕事そのものに,以前のようなやりがいを持てなくなってしまったのだろうか。どんな仕事であれ,一生懸命働くその先に幸福な暮らしがあるという希望や,仕事を通して豊かな社会を作るという目標が持ちにくい現実があって,近代的なオフィスで効率的に仕事をこなすということにわくわくするような魅力が感じられないのかもしれない。そうした漠然とした停滞感が近年のグッドデザインの応募商品にも反映しているように思われる。

文房具類は全般的にちょっとした改良程度のモデルチェンジや,形や仕上げ,配色やグラフィックで印象の違いや高級感を出そうというものが多く,感動するほどのものには出会えなかった。この商品ジャンルは世界的に見てもいまだに日本製品の独壇場で,いわゆる成熟商品市場なのだろうが,その割には小手先の一ひねりのようなデザイン処理を続けているのはどういうわけだろうか。いわゆるユニバーサルデザイン的な製品の多くは問題の捉え方があいまいであるために答えもあいまいであり,結果が美しくない。デザインはソリューションであり,ソリューションはエレガントでなければならない。無印良品のリフィルペンなど意欲的な提案も散見されたものの,全体的には低調である。フェルトペンで世界標準を生み出し,世界最高品質の筆記具を育ててきた日本の文房具業界としての矜持のほどを見せてほしいと思うのは無理なことなのだろうか。ファイル類は種類も多く,様々な機能上の改良が加えられていることは正しく評価されるべきなのだが,その工夫がユーザーに対して必ずしも適切に伝えられていないという印象を持った。説明不足というよりはデザインの表現力不足なのではないか。テープのりは近年普及している商品だが,コクヨ(株)のドットライナーホールドはしっかりデザインされていて使い良い。同じくコクヨ(株)の緑色レーザーポインターは,視認性に優れた高性能をきちんと形に表していて信頼感が持てるデザインである。

さて,文具と並んでこの部門の主流であるべきオフィス家具であるが,20種類を超える事務用イスが出揃ったものの,機能的にも形態的にも基本的には横並びであり原型となった名作の影を色濃く引きずっている。これからのオフィスのあるべき姿を髣髴とさせてくれるような提案は,ヴィトラのモデュラーシステム以外になく,それとて日本のオフィスの現実とはあまりにかけ離れている。わずかに,(株)内田洋行のワークプレイスソファは「24時間働きます」的なワークスタイルをユーモラスにサポートしてくれそうで共感が持てるデザインだ。店舗用の機器・設備はいまだ開発途上の感が強く,情報機器では富士通(株)のタッチパネル情報端末が完成度において際立っていた。

230点の商品を2日間吟味して疲れた頭と目に,アッシュコンセプトの花付箋がすがすがしい。(審査ユニット長 益田文和)

 
 

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