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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    A. 商品デザイン部門

    A05:オーディオビジュアル、家庭用情報通信関連
     
    審査ユニット長  安次富 隆

    プロダクトデザイナー

     

テレビの大型化や薄型化,デジタルオーディオ機器の小型化が進んでいる。多くのデザイナーは,テレビの狭い画面まわりと小さなオーディオのわずかなスペースの中に,他者とのデザインの差異を見いだすことに注力しているようだ。

今年,当部門で金賞を受賞したソニー (株) のPCM-D1は,そういった時代の流れに逆らってデザインされたように思える。持ち歩くには今時ちょっと大きすぎる本体,昔懐かしい録音機を思わせる大きめのアナログメーターやダイヤル式のボリュームつまみを見ていると,使いやすさ云々よりも機器を操作する楽しさを忘れてほしくないというデザイナーのメッセージを感じる。性能はCDを超える高音質録音ができるハイテク機器だが,録音しかできないという点も,情報過多の時代では示唆に富んでいる。良質な音の世界を生録することによって,眠っていた聴覚神経が覚醒させられるかもしれない。

テレビ画面は大きいほど良い,オーディオは小さいほど良いという傾向は,ハードよりソフト,内容にこそ価値があり,究極はモノがなくなることを目指しているように思える。しかしどんなに技術が進化しても,モノなしに内容は提供できない。ではどうするか?

その解答の一つを,もう一つの金賞受賞商品パイオニア (株) のmusic tapが示したように思う。music tapは,PLC(Power Line Communications)という技術を応用し,スピーカーを電源コンセントに接続すれば,本体で再生している音楽を家庭のどこでも聴くことができる全く新しいオーディオシステムである。モノラルスピーカーはモーションセンサーを内蔵しており,人の気配の有無で音楽をオンオフできる。人は機械に触れなくても良い。また,器を連想させるカタチに,今までのオーディオのイメージはない。つまり,音を再生している装置はあるのだが,その姿形を室内環境に溶け込ませることによって存在感を消そうとしたのではなかろうか。人の積極的な関わりを求めるソニー (株) のPCM-D1とは正反対のアプローチだが,両者とも,今後モノは存在すべきか消すべきかという問いに対する解答を,カタチに内包させている点で共通している。他にも,三洋電機 (株) の液晶テレビや (株) ナナオのEIZO FORIS. TV,(株)日立製作所のDVDレコーダーWoooなども,同様の問いに対するそれぞれのスタンスを明確に表現していた。どの考えが今後の主流となるのかはわからないが,少なくとも一様化を避け,多様な選択肢を社会に提供しようとしており心強い。

映像だけ見れれば良い,音だけ聴ければ良いというコンテンツ重視の先には,テレビが見たいと思えば視覚神経に,音楽が聴きたいと思えば聴覚神経にダイレクトに映像や音声信号を与えるといった未来もあり得る時代になった。それを望むかどうか。未来の選択は私たちデザイナーに託されている。(審査ユニット長 安次富隆)

 
 

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