手のひらサイズの理美容鋏やドライバーなどの工具から,見上げるほど巨大な油圧ショベルまで,アイテムの数ほど職種があるといっても過言ではない。それぞれの職種における作業にはまたそれぞれ独自の作業環境があり,さまざまな要因を考慮しつつデザインを審査しなければならない。一般的になかなか目に触れる機会のないアイテムであるだけにGDPの会場では興味を持って見学されていた方も多いと思う。
このユニットはプロの作業道具のデザインであり,これらの道具が熟練した作業者との人馬一体ならぬ人機一体ともいうべきコラボレーションで素晴らしい仕事が生まれているのである。応募総数152点中受賞51件。使用状況や過去のデータも参考に慎重に審査を進めたつもりである。以下,ポイントを列挙してみたい。
まずは,土木工事に用いられる油圧ショベルやホイールローダーのデザインを高く評価したい。そのスケールからは想像がつかないほど細かい配慮がなされたデザインの集積である。室内空間も,押しやすい斜め方向の配置のスイッチ,手にフィットするジョイスティックレバーなど操作性,安全性に対するデザインは完成度が非常に高い。全方位の視界確保やエアコンの効率まで,オペレーターにとっての問題解決がそのまま日本の高レベルの土木技術を象徴している。エクステリアからインテリアの細部にいたるまでバランスのとれた良いデザインである。こういった優れた機器が世界中で活躍していることが,そのままジャパンデザインといったブランドのレベルを引き上げてくれていることは頼もしい限りである。
その半面,大型の機器でも搬入を断念されてパネルだけの展示も多く見られたが,限られたアングルの写真では審査用紙に記入されたデザインポイントを実際に評価するにはあまりにも情報量が少なすぎた。
今回は出張審査もあったが,やはり現物の情報量に勝るものはない,搬入が困難でもスケールモデルや操作部だけの展示,DVDなど映像での補足説明など,せっかくの二次審査のチャンスをもっと工夫してアピールしてほしい。
また,異彩を放っていたのが電動工具系の過剰なグラフィック処理である。確かにパワーやエネルギーは感じるし,若い作業者の嗜好に合うのかもしれない。しかしながら,これらの工具は使い方しだいでは大事故につながる危険な道具でもある。馬力がありそうなグラフィックでも肝心の停止ボタン類がその背後に地味に埋もれてしまっては,安全な作業を確保する大前提が成立しない。これから先,作業者の高齢化や女性の増加,また,外国人労働者も増加していく状況を考えれば,まずは安心感のある安全な電動工具を追求してほしい。道具本来の機能から離れて,ファッション性にウエイトをかけすぎているような傾向が気になった。
今回中小企業庁長官特別賞を受賞した理美容鋏は,道具としての本来のあり方を徹底して追求したデザインであり,これぞプロの道具という存在感を放っていた。こういった技術が一般商品に応用されてさらなる道具の進化があると期待したい。(審査ユニット長 澄川伸一)