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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    A. 商品デザイン部門

    A03:携帯電話、モバイル関連、カメラ、デジタルカメラ
     
    審査ユニット長  高尾 茂行

    インダストリアルデザイナー

     

このユニットでは,200点を超える審査対象の中から75点が,グッドデザイン賞を受賞した。対象数は年々増加傾向にあるが,受賞数は昨年より11点減少したことになる。しかしながら個々の製品デザインレヴェルが低下したわけではなく,評価基準について厳正に討議した結果である。特に国内メーカーの携帯電話とデジタルカメラについては前年度対象の継続モデルデザインが,数多くあった。また昨年発表されすでに廃番となった製品と市場発表前の製品とさらに韓国のサムスン電子(株),台湾のBenQ Corporation社などを中心とした国内に流通しない海外製品も混在していた。実際使用されている時間と場所も異なるので同じ土俵での評価では厳しい。対策としては各対象の商品化の背景,ターゲットユーザー,価格,そして各デザイナーの意図したデザインポイントなどを照らし合わせながら選考するよう心がけた。そこで単にスタイリングやデザインの品位だけでなく,マーケットや使用者に対してどのような新しいデザイン価値が創出され具現化がなされているかを検証する形をとった。

まず携帯電話,モバイル関連機器のカテゴリーでは,受賞48点中15点を海外製品が占める結果となった。今年度の傾向としては,国内モデルはTV,音楽視聴をはじめデジタルカメラ機能ヴューワーの高性能化などのスペックアップがなされているものの,ユーザーにとって最大に魅力を感じさせられる独自のデザイン価値の表現という点において海外製品の方が優れた製品が数多く存在した。特にサムスン電子 (株) の携帯電話SGH-X820は,ブルートゥース,動画撮影可能2メガピクセルカメラ,MP3再生,ファイルビューア,テレビ出力などの機能を搭載し,厚さわずか6.9mm,重量64gを実現したデザインは,かつて日本製品が得意としていた小型化技術によって実現した革新的な携帯電話として金賞候補となった。同社の他の製品も若年層,ビジネスマン,高齢者など特定のターゲット層に対して心地よい新しいユーザビリティーを提供できていた。日本製品の一機種あたりの平均生産台数は50万100万台と少なくライフサイクルも極端に短い,それとは対照的に,中国市場はじめグローバルマーケット向け海外端末は500万1000万台を生産する機種も多く存在し,企業間の競争も激化している。そのような市場が特徴的なデザインを製品化できる環境となっている。今後日本企業のグローバルへ視線を向けたデザイン価値創出を期待したい。

次にカメラ,デジタルカメラ分野での受賞は27点と少ないもののベスト15の金賞を2つの候補が見事受賞した。やはりサムスン電子 (株) の製品であるが,デジタル・カムコーダーSC-X210Lのデザインは,ビスのないシームレスなパーティング処理などによる一体感ある美しい造形で構成されている。さらにコンパクト化へ向けた小型軽量化の技術力と様々な使用シーンでのユーザビリティーへの配慮がなされた秀逸なデザインは,全ての面で日本製品を超えた次世代のモバイルAV機器の方向性への提言が強く感じられた。そしてもう1点は,(株)ニコン+(株)ニコンビジョンの顕微鏡[ニコン ネイチャースコープ ファーブル フォト]であるが,野外観察顕微鏡という単機能の製品に対してデジタルカメラを装着可能としたことで,高倍率で見たものをさらに最大70倍で撮影し高解像度で残す,といった幅広い用途を可能とするデザインである。様々なミクロアートの世界観を子供たちが簡単に体験できる新しい価値観の創出は,社会的にも高く評価すべきだと感じた。

この結果だけでは,近未来デザインへの方向性を定義づけることは困難なのかもしれない。しかしマーケット最優先の商品開発にはない,社会や生活環境へ向けた独自の新しい「作法」「気持ち」「品位」といったデザイン価値を伝える時代にさしかかっているのではないだろうか。日本デザインの「感性価値」と「評価基準」が,世界最先端となることを願ってやまない。(審査ユニット長 高尾茂行)

 
 

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