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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    グッドデザイン賞審査副委員長

     
    赤池 学

    科学技術ジャーナリスト

     

2006年春,イタリアのミラノ・トリエンナーレにおいて,グッドデザイン賞50周年を記念した「Japan Design -Good Design Award 50 Years-」展が開催された。そして,ヨーロッパのメディアから大賛辞を受けることになったのだが,その評価ポイントこそ,「日本のリサーチデザインの卓越性」だった。テルモ(株)の痛くない注射針「ナノパス33」,トヨタ自動車(株)の人間と一体化する未来ビークル「i-unit」,サントリー(株)の「青いバラ」など,日本の基盤技術や熟練技能,サイエンス研究の成果を新領域デザインとして形にしたスタンスが,欧米のメディアに強いインパクトを与えたのである。本年度の審査には,まさにこうしたトレンドを裏付ける,優れたリサーチデザインが数多く寄せられた。その大きな特徴として,多様なロボットがサイエンティストたちから申請されたことが挙げられる。ウェアラブルな「ロボットスーツ HAL-5」,東京理科大学のリハビリ用ロボット「マッスルスーツ」などである。「人機融合」という新しいロボット領域の提案発信としても,その造形デザインには見るべきものがある。

また,優れた基盤技術のデザイン事例としては,三洋電機(株)の充電式ニッケル水素電池「eneloop」がある。本格的な「乾電池型充電池」という新方式は,放電の原因となる窒素酸化物の排除と吸着技術の採用がもたらしたものである。

同様に,「音楽の蛇口」の名が冠された,パイオニアのPower Line Sound System 「music tap」も,電源コンセントの中に音楽信号を送ることができる「PLC技術」が,そのデザイン開発の背景にある。もう一つ,「キッズデザイン」という子供基準,子供目線の製品開発やコミュニケーション活動が,受賞対象として選ばれた。デジタルカメラで野外におけるミクロの世界を観察記録できる「ニコン ネイチャースコープ ファーブル フォト」,(株)CSKホールディングスの子供ものづくりプロジェクト「CAMP」などである。次年度からはグッドデザイン賞と連携し,「キッズデザイン賞」の顕彰も始まる。先進国初の高齢者大国となる日本だからこそ,次代のためのものづくりを形にすることも,グッドデザインのミッションとなっていくだろう。

今回審査のもう一つの特徴として,サムスン電子製品の数多くの受賞に象徴されるように,アジアデザインの画期的な高度化を最後に挙げなければならない。コスメティックなデザインについては,多くの審査部門で国内製品が見劣りしていた。その意味でもやはり,技術や最先端の科学的知見をかつてないプロダクトに展開していくことが不可欠なのだ。産業24分野にわたる今後25年間の技術開発シナリオ「技術戦略マップ」を発表した経済産業省が2005年,革新技術を人間生活に展開する「人間生活技術戦略」を新分野として追加した。これまでの新技術は,ともすれば新産業創出を目的に行われてきたが,五感で納得できる暮らしの実現のために,200を超える人間生活技術を選定した試みは,画期的である。こうした新発想の産業政策をリードすることが,これからのグッドデザイン賞の使命でもある。その意味ではますます,研究開発や技術開発に参画するデザインプロセスの質そのものを高度化することが求められてくるだろう。

 

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