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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    A. 商品デザイン部門

    A11:業務用コンピュータ等、医療機器・設備、サービスシステム、アミューズメント商品
     
    審査ユニット長  村田 智明

    プロダクトデザイナー

     

2006年初めて,このユニットに編入してきたアミューズ商品は,他のどのユニット商品と比べても,商品の良し悪しを決定するための判断基準が,通常の商品とは異なる特殊な性格を帯びていて,それが審査基準の見極めを複雑にしているような印象を受けた。

「楽しむためのアシスト商品」の審査ガイドラインは,「楽しい,面白い」を実現するための,不特定多数のユーザーが迷わず使えるユーザビリティであったり,「興奮し,エキサイト」する状況でも安全が保たれる仕組みなど,ユーザーが非日常のなかで,どれだけ「楽しいこと」に没頭できるかといったスケールが根底にあり,その上に「アミューズ性」のオリジナリティや完成度が問われるような基準とした。その結果,2次審査通過率27%という比較的低い通過率となってしまった。これは,アミューズ商品のテーマである「楽しさ」を決定づける機能性と,それをビジュアル化していく意匠性がうまく補完しあっていないというところに原因がある。技術的な機能表現が先にできて,それにデザインを施そうとしている状態なので,ところどころに無理が見え隠れするのである。ユーザーが盛り上がっている時に分かりづらい操作に戸惑うと,今までのテンションが下がってしまう。できれば,デザイナーがどういった「楽しみ方」をしてほしいのかなど,ユーザーの行為をシミュレーションしながらの商品企画がなされれば,「楽しむための商品」がしっかり企画できるのではないかと考えている。アミューズ商品で世界をリードする日本が,これからのアミューズのあり方をどう考えていくのか,「楽しさ」を創るプロセスに次年度は期待を寄せたい。

医療機器・設備のカテゴリーは昨年度,例年になく大賞や金賞2点を受賞する注目度の高いエリアとなった。日本のものづくりが,付加価値の高い総合ソリューション産業へと向いていることの現れである。しかし,2006年はそれを継承するようなプロライクな先端医療商品よりもむしろ,専門医療機器から脱却し,患者や看護師などが使いやすいパーソナル機器に近いもの,プロユースのアマチュア化を図った企画商品が多かった。中小企業庁長官特別賞を受賞した日本精密測器(株)の指先型血中酸素飽和度計などはその典型的なもので,ハイテク医療の日常化,パーソナル化へのプレリュードとなった。世界的にも高齢社会対策で注目を集めている日本が,パーソナル管理による医療のあり方を示していく段階に来ていることを意味している。ただ,商品企画にデザイナーが参加していないのではと思わせる,ユーザビリティやインターフェースが多かったのは残念である。パーソナルゆえの,プロユースを超えたユーザビリティに次年度,期待したい。

オフィス機器の購入を決定する人は誰で,どんな条件が決定要因になったかをリサーチしてみると,デザインが動機に繋がっている割合は比較的低いことが分かる。また,ここ3年のこのユニットの変遷をみても,デザインによる革新的な提案がなされていない。しかし,オフィス空間が日常の景色を構成していると考えると,メンタルな観点からオフィス環境を考えていく必要性があり,実はそのキーをデザインセクションが握っているように思う。この消極的なデザインワーク,企業のなかでイニシアチブを取れないインハウスデザインに対して,もどかしさを感じてしまう。

次年度に向けて,オフィス空間における主張しない必然性のあるデザインとは何か,どんな空間に一日中いたいのかを,デザインセクションから是非,提案してほしいと願っている。(審査ユニット長 村田智明)

 
 

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