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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    A. 商品デザイン部門

    A08:自転車、バイク、乗用車および関連商品
     
    審査ユニット長  山中 俊治

    インダストリアルデザイナー

     

今年のグッドデザイン賞の審査会場には,軽自動車が多く出品された。軽自動車は,一般の小型車よりも所有者の税負担が大幅に軽くなる代わりに,道路交通法によって,厳密な寸法上限が定められている。十分な居住性と衝突安全性を確保しようとすると,この枠組みをいっぱいに使うしかなく,プロポーション的には個性を出しにくい商品である。にもかかわらず本年は,それぞれの企業のデザイン・アプローチの多様性が目を引いた。各社とも,大きな車に比べると開発体制が身軽な利点を生かして,国内の少子化や高齢者化による市場の大きな変化に対しても素早く対応してきているのだが,変化のとらえ方はメーカー間で必ずしも一致していない。その考え方の違いがデザインに表れている。

ユーザーの声を聞きながらデザインしたことを強くアピールする企業もあれば,デザイナーの造形力に寄りかかって個性を訴える企業もある。高齢者を保守的なマーケットととらえて冒険をしない企業もあれば,新しい市場として大胆に挑戦する企業もある。より上の車格を意識して軽に見えないことを目標にしたものもあれば,徹底的にローコストを追求したものもある。どの企業,どの車種が成功するかはこれからの動向を見守るしかないが,少なくとも多様な選択肢を与える現在の軽自動車の状況は,ユーザーに歓迎されるべき状況であると言える。

そうした中で,今年大賞を獲得した三菱自動車の「 i(アイ)」は,エンジン位置などの根本的な車体レイアウトからスタイル・テーマをスタートさせることによって,印象的な外観を提示することに成功している。一貫した技術思想に基づいたレイアウトこそが魅力的なかたちの根源であるという,プロダクト・ デザインの理想的方法が結実したものと言える。ダイムラー・クライスラーのスマートとの類似を指摘する声もあったが,かのスマートもまた,独自の車体構造を反映したスタイルであり,共通するとすれば,そのデザイン思想の健全さであると理解した。

最後に,車載型カー・ナビゲーション・システムについて触れておきたい。近年のカーナビは,ディスプレイの高密度化と処理速度の向上により,格段に表現力が増強されてきている。申請された各商品とも,その描画性能を駆使して,アイコンや地図表記に立体化やアニメーション化など様々な動的3次元表現を試みている。しかしながら多くの商品において,そうした表現が,必ずしも情報伝達能力の向上につながっていない。従来のシンプルな2次元表現に比較すると,かえって視認性や直感性を損ねているものも見受けられた。言うまでもなく,カーナビの本来の役目は運転者を助け,安全性を向上させることにある。メーカーの謳う「操作の楽しさ」が,安全性向上に貢献しているとは言いがたいものについては,努力すべき方向が間違っていると断じ,厳しい評価をくだしている。(審査ユニット長 山中俊治)

 
 

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