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2006年度グッドデザイン賞審査総評


2006年度グッドデザイン賞審査総評

 
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    A. 商品デザイン部門

    A12:教育関連用品・設備、公共機器・設備/交通、セキュリティ関連商品
     
    審査ユニット長  森山 明子

    デザインジャーナリスト

     

ユニット構成には変化があった。エンターテイメント・ホビー・アミューズメント関連商品が他に移り,セキュリティー関連商品を含むようになったのである。「アミューズメント」と「セキュリティー」の入れ替えは,天災,人災,多発する事件といった不安の時代を反映しているようで考えさせられるものがある。とはいえ,知育玩具から新幹線車両まで,このユニットが多彩な商品を包含していることに変わりはない。

ハイライトは大賞候補作に選出された台湾新幹線700T型である。死亡事故ゼロというわが国の新幹線は,不安な時代のすぐれたインフラとして日本が世界に誇り得るデザイン。それがはじめて海外で採用され,台湾を走ることになる。タイのバンコクで日本貿易振興機構(JETRO)とタイ・クリエイティブ・センター(TCDC)共催で「日本のデザインの遺伝子」展が開催され好評を博したのは2006年の2月4日から3月末日までだった。台湾新幹線700T型こそは,日本の700系新幹線のすぐれたDNAの発現と言える。

この車両は台湾独自の仕様要求を満たすべく,フロントノーズを1メートル以上短くしながら,700系と同等の空力特性を実現することに成功した。その結果,環境騒音を低減でき,横揺れ抑制機能の向上,台車/運転士の異常検知システムの採用,内装材の新規開発などと相まって,公共財に望まれる快適と安全とを,現時点で可能な限り満たすこととなった。車両開発に関わった人々の高い意志がすみずみにまで込められた車両なのである。

事務機器展といった見本市にセキュリティー関連のブースが設けられる時代である。ニセ札発見クリップ,ランドセル110番ブザー,指透過認証装置,住宅用火災報知器,ホームセキュリティーシステム,フリーアクセスゲート,ネットワークカメラなど,このユニットにも多様な商品が申請された。例外はあるものの,こうした商品群のデザインは全体としては進化の途上にあるようだ。緊急時にすみやかに機能しながら,平常時には誤作動を起こさないしくみ。正確な認証を可能としながら,使用者に威圧的にならないたたずまい……。開発にあたっても,グッドデザイン賞の選考にあたっても,考慮すべきことは多いと感じた。

ところで,今年の二次審査会場の風景をやわらげていたのは,風力発電機「風流鯨」ではなかっただろうか。性能を確保しながら,ビッグサイトに持ち込めるサイズの風力発電機にはだれもが好感をもてたのではなかろうか。Gマーク50周年の今年,「ベター」でも「ベスト」でもなく「グッド」を旗印としつづけるグッドデザイン賞の,ある意味の縮図はこのユニットにある。生活者が必ずしも選択することのできないデザインこそがその国の品格を表すのである。(審査ユニット長 森山明子)

 
 

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