2008年度受賞結果の概要

2008年度グッドデザイン賞 審査講評会

第2回「身体領域」(2008年10月20日開催)

  • A01ユニット長 左合ひとみ(グラフィックデザイナー)
     
  • A02ユニット長 長濱雅彦(プロダクトデザイナー)
     

■ ユニットA01(身につける用品、趣味・スポーツ用品、ハンディキャプト用品など)審査講評

左合:私が担当したA01ユニットは、まず1番目に身につける生活雑貨全般、2番目にホビー・スポーツ用品など、3番目に高齢者やハンディキャップトに配慮した機器といった、生活者の体に触れる日常的な製品を対象としています。このユニットは非常に数が多く、1次審査の段階で300点以上の多岐にわたるアイテムが審査対象になりました。審査する上では、先に述べたジャンルごとに審査の観点を整理しています。身につける生活雑貨全般、ホビー・スポーツ用品に関しては、ものやことを作る創発力を基本的な審査基準としました。それに加えて、生活雑貨に関しては、生活文化をより豊かにするような魅力があるのか、ホビー・スポーツ用品に関しては、未来を切り開いていくような独創性、創造性が見られるかを評価のポイントとして審査に臨みました。
高齢者やハンディキャップトに配慮した機器は、もっとも問題意識が問われるところであり、問題解決ということが大きなポイントとなりますので、やはり現代社会への鋭い洞察力や社会、環境に対する思考力が見られるかということに注意しながら審査を行いました。
このユニットの審査対象は、生活を快適にしたり豊かにするキーを握っているともいえます。ですので基本的に、自分たちの日常生活の細部にわたる問題点を生活者の視点で解決しようとしているか、あるいは潜在的に持っている願望に適確に応える想像力を持っているか、という視点も大事にしています。

今年の全体の印象として、特に優れていると評価されたものには、重い・大きい・難しいというストレスを解消することで、問題を解決していこうとする真摯な姿勢が感じられるということです。軽量化は生活の中でのストレスを軽減することができる重要な要素です。また、コンパクトであるということは、どこにでも持って行けるということですし、専有面積が小さいので生活空間の中で邪魔にならない。操作が簡単なものの評価も高かった。マニュアルを見ないと何もできないような非常に複雑なものが多い中で、あまり考えなくてもすぐに操作できる簡便性を持ったものが多く評価されています。

金賞を受賞したロボット「アイソボット」(受賞番号08A01033)が、その一番象徴的な例として挙げられます。大変小さく軽量で、ロボットとしては世界最小サイズと言われています。完成品ですので、すぐに遊ぶことができる。そして操作が本当に簡単で、細かな操作にも応えてくれます。動きも繊細ですし、このあたりに日本の物作りのよさが表れていて、細かいところまでよくできています。価格も3万円弱と非常にリーズナブルで、一般の家庭で夢のようなものが簡単に手に入るという、消費者のニーズを本当によく捉えていると感じました。総合的に非常に優秀な出来だと思います。

中小企業庁長官賞を受賞した釣り用リール「オーパス-1 ネロ」(受賞番号08A01045)。これは、ブラックバス釣り専用という非常に狭い範囲に特化させたリールです。ブラックバス釣りに求められる運動性能を高めるために、軽量化を追求しています。行き届いたさびを防ぐ処理、耐久性の高さ、運動性能といった機能、高性能ということもさることながら、愛着を持って長く使用されることを目指し、職人さんによる丁寧な加工と仕上げがなされているため、非常に美しいものに仕上がっています。ユーザーへの細かな配慮が流行に左右されない美しいものを生んだという非常によい例です。

ハンディキャップト製品に関しては、その配慮が表に出過ぎるあまり逆に心理的な圧迫感を与えてしまうようなものも一般的に多いのですが、今年の審査対象には非常に優れた例が幾つか見られました。

その1つが車いす「U2ライト」(受賞番号08A01030)です。これもかなり軽いうえに、無駄をそぎ落とした美しい形状をしています。審査委員みんなで試乗したのですが、直進性もよく、くるっとまわるターンもスムーズな動きでした。長時間座っても疲れない快適さもありますし、軽量ですから車に積む込むのも非常に楽です。これを車に積んで活動することによって、行動範囲が広がるということを実現している。これは、実は事故で車いすユーザーとなった方が開発されていまして、自分自身のための道具というところからスタートし、さらに道具として改良を重ね良いものを生み出したという、ユーザー視点のモノづくりの典型的な例といえます。

シェル」(受賞番号08A01072)という貝の形をしたテーブルウエア。左端が貝殻の根元ようなかんじで、きゅっと返しが入ってくびれていることで、スプーンですくったときにこぼれないような形状となっています。形も美しく、いかにもハンディキャップトというところが表れることなく、ナチュラルに食事ができるということが考えられていて、これからのモノのあり方として主流となっていくとよいなと思わせるとても良いものです。同様に「キャリーナウォーカー」(受賞番号08A01031)という歩行補助車も、本当に普通に使えてスタイリッシュで豊かな生活に貢献するようなものです。こういったものがさらに増えていくといいなと、今後期待したいところです。

これまでご紹介したもの以外で評価が高かったものをご紹介していきたいと思います。

SENZ XL storm umbrella」(受賞番号08A01010)は、風が強い嵐のような天候でも使える傘です。そのために目を保護する保護具も付いているのですが、非常に発明性の高いもので、全体にイノベーティブなものが少ない中で目を引くものでした。

フライングレター」(受賞番号08A01025)という封筒は、お手紙を書いて、紙飛行機のように折ってそのまま届けられるというものです。実は何でもないものなのですが、メッセージを伝える手段として非常に夢があり、身近な些細なところから生活を豊かにするヒント見つけ出しているという点がよいと思いました。

幼児服「37 degrees」(受賞番号08A01023)は、幼児の体温が上がりすぎないようにしてくれる服です。NASAの技術を使って開発されたということで、幼児の突然死の原因となる、寝ている間の体温の上昇を防いでくれる。技術志向から革新的なものが生まれるケースは多くはないだけに、特筆するべきものでした。お尻のところにポイントが付いていて、デザイン的にもかわいいもので、単なる機能だけではない非常にしゃれた洋服でした。そういった機能と美的な部分を兼ね備えていることが非常によかったと思います。

スノーピークというブランディングが非常に上手なアウトドア用品会社の「ワンアクションちゃぶ台 竹」(受賞番号08A01052)は、ポップアップ絵本のように開くだけで設営できるという、竹の集成材でできている大変軽量なテーブルです。接地面がアールになっているのは、テントの床面を傷つけないためです。もともと日本の暮らしはみんな低座で座って生活していたわけですが、低く座ることによって空間も広々と見えるということもあり、ライフスタイルの提案という面で高く評価できます。

以上さまざまなものをご紹介しましたが、軽量、コンパクト、簡単なものがメインにある中で、発明性があり素晴らしいものもある。ただ全体を貫いて優秀だったと思えるものは、消費者サイドから本当に問題解決しようとする視線を持っていることだと感じました。

■ ユニットA02(家庭用品など)審査講評

長濱:家庭用品を中心とした審査対象を見させていただきました。全部で120点ぐらいの応募で、その中から3割弱の約40点が受賞しています。このユニットには新しい技術に支えられた生活インフラ的なもの、たとえば電池や電球などがありますが、基本的にはデジタル家電等を対象にしていませんので、技術によるブレークスルーはなかなか見られません。地方の中小企業が一生懸命開発したものに見られたのは、過去にあった生活の作法、職人の技術、長く愛されてきた素材といったものをデザイン開発に取り入れていくような柔軟な姿勢です。ちょっとした工夫で今までにないすばらしいものが生まれる。こうしたものを通して、そういう姿勢の重要性を改めて教えてもらったと思っています。審査では、今後の新しい近未来の生活を上質に導くもの、ユーザーさんを導くものを評価していこうというのが大前提にあります。

金賞を受賞した「花ふきん」(受賞番号08A02002)は、実は最初はその良さがわからなかったのですが、よくよく見てみると大変優れたものでした。奈良の蚊帳の生地を使ったふきんです。風呂敷代わりにも使える1枚の布ですが、濡らすと非常に柔らかくなって普通のふきんの倍ぐらい吸水性が高くなり、しかも軽く、濡れてもすぐ乾く。すぐ乾くので、臭くなったりするようなこともない。こういう大変優れた生地が日本にはあったんだということ、中川政七商店という奈良県の大変有名なところが開発したということ、これは大変なことだという驚きがあった。最近だとデジタル技術の分野でブレークスルーしたものなどにデザイン的に新しいものが多いのですが、これは十年以上前に開発されたもので、そういったものにスポットが当てられたということが、今回のグッドデザイン賞の基本方針をデマンドサイド型に変えたことを象徴することにもなったと思います。

パッケージデザインを含め色の開発もアーティスティックで、ものすごくよく仕上がっています。海外へ行くときのお土産として、すばらしいギフトになると思いますし、日本人が誇れる、これを使ってもらっただけで日本のことがふわっと見えてくるような商品で、こういった古いものを見直す・足元を見直していくことは大変重要ですし、日本の産地にとってはそこにキーワードがあると思います。日本には大手繊維メーカーもありますし、新しい素材、繊維でこれと同じ機能のものを作ることは技術的にできるでしょうが、この風合い、懐かしさ、愛着を出すのは大変難しくて、やはり地方の伝統産業や技術にはそういったもののアドバンテージがあることをもう一度考えてもらうきっかけになると思います。

それから「モコモコタオル」(受賞番号08A02001)。雑貨店とか大きな流通では扱っていないかもしれませんが、大変売れている人気商品だと。エコロジカルな作り方もされていますし、軽量で、吸水性もよく、柔らかくて、それでいて生活に対しての感度を感じます。ずっと触っていたいような心地よいタオルを作りたいという感性が背景にあってできたものだろうと思います。

それから、充電池8本を一度に充電できるお弁当箱みたいなかたちのエネループの充電器(受賞番号08A02006)は、デザイン的には余計なことを一切していないのですが、中身は非常によくできている。広げたり縮めたりすることで単1から単4まで対応している。エネループを生活必需品にしたいという思いを感じる商品です。エネループ関連商品には、ほかにソーラーライト、カイロ、ひざかけという新しくより機能的に充実したものがあります。たとえばカイロで教えられるのは、年間約14億枚の使い捨てカイロが消費されているという現実。このカイロによって我々に環境への気づきが与えられる、つまり環境運動ともいえる。そういう情報価値的な面に関して、デザイン的配慮がなされているのがこのシリーズなんだろうと思います。単に機能的性能的なものだけを追いかけるのではなく、これからの地球環境を考えて作っていくという姿勢があることで、これからますます楽しみな商品シリーズだと思いました。

これもちょっとした気づきから生まれたものだと思いますが、電源タップ2つを取り上げたいと思います。 「コードすっきりタップ」(受賞番号08A02011)は外見的には何でもないシンプルなものですが、4本同じ方向にコードを出すことによって1つの流れを作り、コードの取り回しを良くすることを目的に作ったものです。モノがすっきりとしたシーンを作っていく。ディマンドサイド型、生活をよく見ていないとできない商品です。「ACアダプタすっきりタップ」(受賞番号08A02012)はACアダプター用の電源タップです。1つ1つのコンセントの間隔が58ミリですので、複数のACアダプターを挿しても隣に干渉することなく使える。ACアダプターが電源タップに挿せないという現実は大変よく経験するところで、そういった配慮からすっきりとしたデザインにまとめたのでしょう。 こういう視点は、どういう商品企画から生まれたのだろうと私は審査しながら想像しました。物を売ろうとするのであればもうちょっと流通にのっとってやればいいという考え方もありますが、一見地味と言えるようなものを一生懸命きちっとやるという姿勢は、消費者が変わりつつあることをメーカーが理解した大変画期的な商品開発じゃないかと思いました。

いろいろな発想の転換みたいなものがある中で一番目立ったのが、「Goodbye detergent! series」(受賞番号08A02026)という、洗剤を使わないで水だけで汚れを落とすという清掃用品です。スポンジの形状、材質でいろいろな用途(キッチン用、バス用、エクステリア用など)のバリエーションがある。研磨することで清掃するのですが、研磨材にはクルミの殻、トウモロコシの芯、モモの種などを使っている。作法として社会にまだだなじみのないものですから、消費者、生活者側にもう少しこれを分かりやすく理解できるようなものに今後昇華できれば、多分よりよいものになるなと。

中小企業庁長官賞を受賞した「トラッシュポット」(受賞番号08A02030)は紙でできたごみ箱です。環境意識の高い現在、樹脂製のごみ箱はないだろうということを100年の歴史を持つ紙器を作るメーカーが考えまして、デザイン会社と一緒に作ったというものです。専門の紙器メーカーですからディテールが大変すばらしい出来栄えでして、質感も非常に高い。ビニールを隠すようなカバーも付いていたり、あと上蓋の方向を入れやすい角度に変えられたり、さまざまな使い方にも対応しています。これは多分10年使おうというものではないけれど1、2年で壊れるものでもない。そういう発想の転換からできたものかなと思います。

以上、評価が高かったものを紹介してきましたが、メーカーが持っていた足元の技術とか地元の技術・素材にもう一度目を付けたり、あとは環境という流れ、また一方では、今までとは全く違う発想から物を作っていくという、大きく2つの潮流が、家庭用品の中に見られました。流通のためのデザインではなく、やはり生活者のためのデザインになりつつあることが感れられました。その流れとして、基本的・全体的に値段は安くありませんし、非常に地味で簡素なデザインですが、いいものをきちっと作ろうという姿勢が多く見受けられた審査会だったと思っています。

■ ディスカッション:日本のモノづくりの美点

長濱:今年からグッドデザイン賞の基本方針とされた「ディマンドサイド・生活者の視点から」ということでいえば、これからはやはり生きていく上でいいもの・気持ちいいものを使いたいとか、省エネへ貢献したいといった傾向が少しずつ現れてきているのが今回だと思います。やはりグッドデザイン賞はそのような商品を選んでいくことが重要で、そういった視点を審査の場で再認識することが、より生活者側に立っていることだと感じているんですけどね。

左合:今世帯あたりの人数が減ってきていて、一人暮らしとか二人暮らしが多くなっています。だからといって住空間が広がるわけでもなさそうで、小さなマンションのワンルームに住む人が増えることを考えると、やはりそれぞれのものがものすごく大きなものであったり、圧迫感、存在感のあるものだと非常に苦しいわけですよね。軽量、コンパクト、健康器具でも何でもできるだけ場所をとらない。そうした制約の中で必要とされる機能を満たしながらも、できるだけ変な存在感を持たずインテリアの中で「しゅっ」と納まるようなもの。ライフスタイルが変わっていくことを考えていくと、変な存在感を持たないということが1つ重要な点かと思います。

また、自分が本当にこだわったものを長く使いたいという思いがあると思いますので、チープなものをどんどん使い捨てていのではなく、気に入った物を長くということでの上質感のような。これは特に中小企業が作られるものに可能性を非常に感じます。本当に丁寧に作られているものがありますので、そういったものに今後光が当たっていくことを期待したいです。

そうしたところを見ると、海外にはない繊細さとか、心配り、気配りといった強みを日本は持っている。かゆいところに手が届くとか、どうしてこんな細かいことまで考えられるんだろう、と。それは想像力から来ることだと思うんですけどね。こうしたら喜ばれるんじゃないかというおもてなしに通じる心というか、こうすればこうだし、ああすればこうだろうな、喜んでもらえるだろうなというところが思い描ける。和というキーワードもあると思いますが、新しい和のあり方というか日本の美点ということで言うと、その辺が大きいかなという気はします。

長濱:本当にそうですね。日本の物作りが世界に誇れる点だよね。例えばミルクにはメラミンが入っていないこととか、素材が非常に優れているということなどもあります。ボーイング社の新しい旅客機はオールカーボン製で、三菱重工が提供している。なぜ日本製かというと、東レのカーボン繊維、プリプレグという素材しか信用されないんです。このように日本の素材というのは大変優れていますし、新エネルギーの問題でも優れた技術がある。車で言えば、燃料電池やハイブリット方式などがあります。そういった面で、素材、新エネルギーすべて大変優れていますから、もっとその辺に目を向けて新しい開発をしていけば、むしろ世界でも優位に立てるというか、デザインオリエンテッドな国になれると思います。その辺がポイントかなと思いますけどね。

左合:ギフトということに触れてみたいのですが、日本のギフトだと伝統的なものでいいものがあって、海外の人に評判がいいですよね。私も燕三条のほうで「enn」というブランドをやっております。金属加工業のメーカーさんを集めたジャパンブランドなんですけれども、そこでプレートなど色々なものを作り、カトラリーなどを今世界に出しています。鎚起銅器という銅板を打ち出して作るティーポットが、高額なんですけれども外国の方には人気が高くて、漆を塗ったタイプのものがあるんですけれども、ジョエル・ロブションで使っていただいたり。そういったことで漆や銅器という素材が、割と注目されている。つまり、伝統的なところに答えはあるのかなという感触が私の中にはあります。ただ、伝統そのままで持っていったり、和のまま持っていったらだめなのですが、向こうのライフスタイルに合うもので、向こうの方たちの想像力を刺激して、これを使いたいと思わせるようなものであれば、本当に受け入れられると思います。
燕三条の仕事というのは、中国の安い製品に押されて消極的だったところを、消費者に何が求められるかという視点にも立ちながら、外国人にとってどういうものが嬉しいかを考えて、成功しつつある事例になっているところです。
日本の強み、技術ともてなしの心をかけあわせることで、まだまだ可能性は生まれると思います。

長濱:左合さんの審査ユニットにはスポーツ用品もありますが、これも実は日本は大変優れている。素材も含めて、例えばゴルフのチタンに関してはロケット材よりも優れていますし、日本の素材メーカーは開発が非常に進んでいるんです。繊維産業も大変進んでいますので、スポーツ用品の開発が、実はいろいろな生活用品の向上には欠かせないものだともいえるんです。軽量でドライ系の生地も、スポーツウェアや水着の開発が先行し、それが生活に降りてくるという構図だと思いますので、そういったものが医療用の寝間着とかに使われたり、軽量なので介護用品に使われたりしていくという状況が、生まれてきてほしいですね。日本は素材立国というか、大国だと。日本にはそういう強みがいくつもありますから、ぜひそういうところを活かしたデザインを今後期待したいですね。