2008年度受賞結果の概要

2008年度グッドデザイン賞 審査講評会

第1回「生活領域」(2008年10月10日開催)

  • A03ユニット長 柴田文江(インダストリアルデザイナー)
     
  • A04ユニット長 益田文和(インダストリアルデザイナー)
     
  • A05ユニット長 難波和彦(建築家)
     

■ ユニットA03(家事、調理のための道具・機器など)審査講評

柴田:今年、グッドデザイン賞は制度全体の改善をおこなって「生活者の視点で審査する」という方針で審査をやってきました。私が審査を担当した分野は、家電製品・調理器具など、くらしに密着したものでしたが、審査するうえで特に意識したのは「ライフスタイルをじっくり見つめること」でした。
例えば、冷蔵庫も洗濯機も「大型家電」という区切りで横並びの視点による審査をしがちです。しかし、冷蔵庫は、私たちの日常生活の中でも一番身近なアイテムですし、家電でありながらも家具的要素が高いものです。これらのデザインは「機器としての機器らしいデザインの表現」というより、「生活の中のエレメントとして、日常にどう溶け込んでいくか」というところがデザインの一番の軸になるのではないかと考えました。
同様に、洗濯機はできるだけ使いやすく、作業自体を助けてくれるようなことにデザインの創意工夫を凝らしていくのがデザインの軸であると考えました。
このように、1つ1つのアイテムの置かれる生活シーンをよく眺め、一番の「軸」となる点を探し、それに照らし合わせて具体的に「このデザインは適切だろうか」ということを審査のポイントとして考えていきました。
特別賞を受賞された商品以外にも、よいデザインがいくつもありましたが、それらに共通する傾向としては、新しいテクノロジーが使われていなくても、デザインと真面目に向かい合い、工夫で新しい価値を創出しているということです。

以上をふまえて、評価の高かったアイテムをいくつか紹介します。まず調理道具からは「包丁MOKA」(受賞番号08A03015)。適切な価格で作られていて、とても軽く、人間の手、特に日本の女性の手になじむように考えられています。成熟している分野に対してデザインの力で新しい価値を作っている好例です。「サークルターナー」(受賞番号08A03018)。バネのような形状と樹脂の弾性を利用して鍋肌を滑らせて物をひっくり返すことができるターナー。見た目にも新しさが感じられ、製造の工程も非常にシンプルです。特に新技術を使っているわけではありませんが、これもデザインの力で新しい価値を作っています。「調味料容器」(受賞番号08A03019)。中身の調味料の粘度や粒子に合わせて注ぎ口を研究しデザインされています。また、密閉させるためのリブがデザインのポイントとなっています。調味料入れとしての機能、注ぎやすさ、詰め替えやすさなどを創意工夫しながらも、なおかつ卓上に置いて美しいものに仕上がっている、日常のデザインの基本を見るような思いがしました。「オーブンレンジ」(受賞番号08A03031)。外観がシンプルで、庫内がフラット、使いやすさを考えられているところがすばらしいというのと、細かい部分の処理も美しい。グリルの要素を少なくして、機能としても使いやすいハンドルをデザインの中に溶け込こませています。そして、特別賞候補にもなった「家庭用ミシン」(08A03052)です。本体の肩の部分を開くと取扱説明書はイラスト付きで誰にでもわかりやすい。あとは、台が使いやすいように低く作られていたり、手が疲れない工夫があったり、布さばきがいい。使っているシーンを考えて創意工夫されているところがとてもすばらしいと思いました。

一方、このユニットの審査で少し気になった点も挙げます。近年、家電や家庭用品のデザインはどんどんシンプルになっていて、マーケットでの見栄えより、実際の生活シーンに入ったときのなじみ具合や、見た目の美しさを求める方向にシフトしています。しかし、フォルム自体がシンプルになったり、機能が整理されているがために、グラフィックの煩雑さが気になる商品が目立ちました。

■ ユニットA04(家具、インテリア、住宅設備など)審査講評

益田:この審査ユニットへの応募作には、家具・小物から住宅設備、システム、建築部材まで、様々な種類のアイテムが混在していました。それだけに、どのような視点から選考していくかを、審査委員同士でかなり議論しました。近未来の暮らしはどんな暮らしだろうといろいろ議論する中で「粋なくらし」というキーワードが現れてきた。では、「粋」って何だろうかと。解釈に幅はありますが、成金趣味のごてごて、大げさなもの、あるいは安っぽいものといった、野暮ったさを全部排除していった最後に残ってくるようなもの。そんな「粋」なものを選んでいこうということをこの審査ユニットの方針としました。
ちなみに、このユニットに限らずですが、「グッドデザイン賞」に選ばれたものとそうでなかったものを比べたときに、選ばれなかったものは「グッドデザインじゃない」ということではまったくありません。今はデザインが成熟してきていますので、言ってみればビッグサイトの二次審査会場に集まってきているものは、全部グッドデザインなんです。つまり審査委員は、多くのグッドデザインの中から、それなりの理由があってすごく魅かれるものや感動したものを、「グッドデザイン賞」としてピックアップしているということなんです。感動した理由が何なのかという話はまたいろいろあると思いますけれども、基本的にはそういう構造だということがまず前提にあるということをお伝えしておきたいと思います。
幾つか審査の中で話題になったものを紹介します。

組み立て式和室」(受賞番号08A04001)。これはまさに我々団塊世代が最期に潜り込みたい空間です。質がよくディテールまできちっと作ってある。建て付けの悪い簡易間仕切りではなく、こだわりが随所に感じられるものです。「サイドチェアー」(08A04009)。椅子の選考については、特に素材に注目しました。使っている素材の原産地、細かなチョイス、加工の選択なども踏まえ、どうやってその素材のよさを引き出しているのかということです。その中でも特に注目したのは、この竹の椅子です。なかなかの後ろ姿で、すごく透明感があって美しい。座り心地もいいものでした。「ユニットバス」(受賞番号08A04052)。このユニットバスはとても小さい。ほとんどシャワーブースですが、最低限のバスタブが付いている。最小限の機能はちゃんと果たしているし、ヨーロッパのおおげさなシャワーブースに比べると、はるかに密度感があってよい。日本的なミニマリズムの極致です。
壁紙 ア・ウォール」(受賞番号08A04066)。内装材はさまざまあり、特に今回は自然素材系の壁面の仕上げ剤が目立っていました。これは阿波和紙の壁紙ですが、インテリアに使える楽しい紙が上手にセレクションされていて、非常に質の高いものでした。 「漆喰ペイント」(受賞番号08A04071)。左官屋さんに漆喰の壁を塗ってもらうのはなかなか手軽にはできないことですが、これは漆喰をペイントしてしまうという商品。ローラーで塗れるものです。このような商品がでてくると、これからインテリアは格段におもしろくなってくるのではと感じました。そして今年新設のサステナブルデザイン賞を受賞した「タイルカーペット」(受賞番号08A04073)。徹底的なメンテナンスとリーシングのループを完成させているブランドです。アメリカのユニークな会社で、日本にも進出してきました。まだ日本ではカーペットの柄や値段で評価されてしまいがちですが、最近段々と注目されてきました。
この部門はほかにもいろいろな種類の商品が応募されていて、審査するほうもなにが出てくるかは戦々恐々なんですけれども、それだけにいまおもしろい分野だと感じました。

■ ユニットA05(住宅、集合住宅、マンションなど)講評

私たちの審査ユニットが担当したのは、住宅、マンションなどの分野です。今年の制度改定によって、昨年までまとめて審査していた「住宅、マンション」「オフィス、商業設備」「公共建築、環境都市計画」という3つをわけて審査をすることになりました。この審査ユニットは「生活領域」の中に所属するということで、商品化住宅・戸建住宅、そして小規模な集合住宅から、大規模なマンションといった「住まいに関する空間すべて」を審査するということになりました。
とはいえ、応募されたものは細かく見るとやはり多種多様で、ひとつの軸で全ての対象を評価するのは難しいだろうと考え、さらにいくつかの分野に分けて審査しました。
例えば、戸建住宅でも、ハウスメーカーがつくる商品化住宅と、建築家やアトリエが設計する一点ものの住宅を同じ土俵で比べるのはかなり難しい。実際、戸建住宅はかなり自由度が高いうえに、応募数もかなり多く、評価の尺度を考えました。
集合住宅では、最近特に目立つのがタワーマンションです。この評価は非常に難しい。というのは、規模が大きいためどうしても都市的なスケールの公共空間に対してもデザインをしなければいけない。また、ロビーや玄関周り、眺望や高さが住戸を売る場合の大きな環境的な価値ともなり、そういったことでも評価の仕方は違います。
一方で、賃貸の集合住宅のデザインはがんばっていて、住み替えを前提とする賃貸の特徴を活かし、住まい方に対するラジカルな提案が寄せられました。いろいろな住まい方、例えば1.5層の住宅が応募対象にありましたが、同じ面積でも容積率が小さくて済み、少しコストは上がるけれども立体的な空間ができたりするので、商品価値が上がり、借りる人も魅力を感じ、ライフスタイルと商品性が絡まってよい効果を生んでいると感じました。
そのようなことで、デザイナーがつくっている一戸建ての住宅、ハウスメーカーやディベロッパーの商品化住宅、集合住宅の中での分譲タワーマンション、賃貸の集合住宅。この4つはそれぞれの尺度で審査をしました。
話題になったものを紹介します。 「INDUSTRIAL DESIGNER HOUSE」(受賞番号08A05034)。これは仕事場の付いた鉄骨造の住宅です。クライアントがプロダクトデザイナーでもあるので、鉄板を使ってハードエッジな設計で、かなりハイレベルということで評価が高かった。「ソリッド」(受賞番号08A05041)。これは賃貸の集合住宅。下のボリュームと上のボリュームの交差の仕方が不思議ですよね。これも非常にデザイン力が高いと評価されました。戸建て住宅はそういうわけで、社会性というよりはデザインのキレのよさが評価のメインテーマとなりました。 「ベル・パティオ」(受賞番号08A05046)。これは関西の賃貸アパートです。ローコストを徹底しつつも駐車場付き戸建て感覚です。壁を共有することによってコストを抑え、1つ1つの住戸が自分の庭を持っています。関西の長屋といった伝統を引き継いで、社会的な意味でよいと思いました。逆に、「成城タウンハウス」(受賞番号08A05055)。これは特別賞候補にもなりそうだった集合住宅です。成城の周りの住宅のスケールに合わせて小さなスケールにブレークダウンした分棟方式の、ある意味画期的な試みですが、残念ながら社会的にはまだなかなか受け入れられない。建築界の評価とグッドデザイン賞における評価の違いを考えさせられました。 「サトヤマヴィレッジ」(受賞番号08A05049)。普通の敷地の間に境界を立てて崩壊するミニ開発ではなく、2メートルの接道の進入路と裏を全部あけて塀は建てないという前提で開発した住宅で、非常に新しい試みだと思いました。 「イプセ中延 」(受賞番号08A05080)。これはマンションですが、非常に小さな住戸で、1戸二十数平米しかありません。賃貸だからこそできる1.5層の住まい方をしています。そして「東京グランファースト」(受賞番号08A05084)。これは総武線の小岩駅前の再開発。このおもしろいところは、最上階に1.5層の住宅を入れているところです。約4メートルの天井の中で立体的な住空間を提案しようとしているところが非常に新しい試みです。
このようなユーザー目線に立った取り組みを持続していくことはすごく社会的な意味があると思います。ぜひ大手ディベロッパーの方は分譲マンションにこういう考え方も少し取り入れてもらいたい。都心でいろいろな住まい方をする人に対して1つ1つ対応していくような提案が必要です。最も大きな働きを持つ大手ディベロッパーの方たちの社会的な役割だと思います。

■ ディスカッション:「生活者目線の審査」について

柴田:私はプロダクトデザイナーなので、クライアントから依頼されて仕事をするわけですが、デザインって二重構造になっていると思うんです。まず、クライアントの了解を得ないと、ユーザーのためのものが作れない。クライアントにいいデザインを提案して受け入れてもらい、作ってもらって初めてユーザーに届く。しかも、それによってクライアントに利益をもたらさなくてはいけないという構造になっているので、デザイナーはユーザーのためを考えてデザインしているのですが、それを製品化するまでにはプロセスがあります。ですので、グッドデザイン賞が生活者の視点に立って審査するという方針を掲げたことによって、それがいまのデザインの考え方だということで、クライアントにも説明しやすいし、今後デザイナーにとってもデザインをやりやすい状況につながっていくのではないかなと思います。
益田:私は今年「生活者目線」という方針を立てたことに、実は全然ぴんとこなかった。というのも、グッドデザイン賞の審査は最初から「生活者目線」なんです。創設当時(1950年代)の受賞商品を見ると、徹底的に生活者を意識しています。ところが、1990年代から2000年に入って少しぐらいの不景気の間、産業の活性化に目がいきすぎ、生活者の目線を少し忘れてしまったのではと思う。だから、「再度改めて」ということだと思います。
確かにそういう意味でもう一度考えてみると、この十数年の間は随分変なものがいっぱい出てきた時期ではあった。少し具体的に言うと、作り手本位の「おれがやったんだぞ」的なアートワークが商品になって、なぜ売れないんだと怒っているようなものがいっぱいあったんです。メーカーのほうもそれで起死回生を狙うといったような。そういうことがずっと続いてきていたのですが、ここに来てもっとユーザー本位の誠実な物作りをしようという空気が出てきた気がします。今年はそれにうまく波長を合わせるように、我々が見ても納得できるようなものがたくさん戻ってきているように感じました。暮らしの中で何が本当に必要なのかという考えに立ち返るちょうどいい機会だと思います。
難波:金賞となった「FLEGバードパーク」(受賞番号08A05043)という賃貸集合住宅があります。これは都会の土地の既存の緑を残してその中に建てた住宅です。基礎の作り方など難しい問題がありますが、枝の張り方、根の張り方を光学測量して、樹木を傷つけずにかつできるだけ建物を緑に近づけるということを徹底してやっています。この物件はかなり高額な賃貸料にも関わらず、全戸借り手がいるくらい人気がある。ボリュームゾーンではありませんが、そういう住まい方をしたい人が確実にいるからです。作り手が想定する「平均的にこういう住まい方をしたい人」がいるわけではなくて、やっぱりこれだけのお金を出してもこの緑ある空間が貴重だと考えるという人たちが、確かに存在しているということです。デザインというのは、そういう社会的な要求を掘り起こして提供するものではないかと思います。
建築で難しいのはまずクライアントが必ずいて、そのクライアントとしては、作る前にいろいろ相談をするけれども、結局でき上がったらその物件を買わざるを得ないわけですよね。作る段階で、設計条件を自分の要求よりもちょっと高く設定するわけです。だから、やはり建築というのは、大なり小なりかつてのモダニズムの時代ほどではないけれども、啓蒙的な部分があります。
あまりいい例じゃないけれども、すごく太った女の人にちょうどいいサイズの洋服をあなたに合わせて作りましたと言ったらむっとしますよね。やっぱり、ちょっときつめの洋服を作ってあげるという選択肢があってもいいと思うんです。住宅を設計するときも、家族の生活がばらばらだからといって、それに最適化された住まいを設計するということが本当に正しいのか。そうではない、ばらばらの状況の生活が少し変わるかなというある種の幻想を作ることが必要なこともあるわけですよね。
建築にはそういう働きがあるので、ある一時点での需要・要求を満たし、お金のある人たちのためにあまり危険のない提案をするというのは、提案でも何でもなく、ただ太った人に太った住宅を造ってあげているようなものだと思うんです。
難しいのは分かるのですが、非常に大きな影響があるのだから、ちょっとだけでもいいから先に一歩踏み出すような提案をしてほしい。だから、ユーザー目線というのは、建築の場合はちょっと先のユーザー目線。今を何も変えないユーザー目線ではなくて、ユーザーの目をちょっと先に向けるような提案をしてほしいというのが正直な感想です。

■ サステナブルというテーマについて

益田:サステナビリティーは、いま本当に重要なキーワードです。環境の問題は、危急の課題として僕らの前に突き付けられているわけですけれども、それは言わずもがなで、環境に配慮した物作りをしていかなきゃならないというのはデザインの大原則です。ただ、もちろんそれだけではありません。
大きな言い方をすると人類の未来がかかっているわけで、だから、今の僕らの生活、暮らし、社会、文明をどうやって維持していこうかとつい考えてしまうのですが、それは間違いです。むしろ、今の文明、僕らが暮らしている社会の基盤、制度はすでに破綻しているわけです。僕らが暮らしている経済機構、環境の問題も含めてすべての欠点が露呈し、これがサステナブルではない、ということが実証されているのです。
なので、今それに代わるものが求められています。代わるものを探さなくてはいけないし、作っていかなくてはいけない。まさにデザインに対しても、ものすごく大きな課題が突き付けられています。ひとつは環境の問題。これはありとあらゆる専門領域と一緒に考えていかなければならない。政治も絡むでしょう。
もうひとつは社会の問題。僕は毎日朝のニュースだけは見るのですが、あとはほとんどテレビは見ません。見るのも憂鬱になるくらい嫌なニュースが次から次へとあります。そういう社会にいつの間にかなってしまったというか、してしまった。ではそのような社会に対して何をおこしていけばよいのか。
そこにデザインはすごく深く関わります。何を作っていくのかということは、結局社会のしくみを作っていくことにほかならないわけですから、売れれば何でもいいんだといって変なものをどんどん作れば、そこからいろいろな問題が起きてくるというのは今までに充分経験しました。僕らがそれに対して徹底的に考えなければいけない。
そしてもうひとつは文化です。僕らが歴史的な日本の文化のいい部分をきちんと継承していく必要があります。それができないのだったら我々のアイデンティティーがなくなり、その上で社会をきちっとした形で次の世代に渡していくことができるのでしょうか。その大前提に環境の問題があるのです。
地球レベルの環境の問題、われわれの社会の問題、文化の問題の3つを同時に解決していくのがサステナビリティーの考え方なのです。デザインはそこに深くかかわっているからこそ、いま一度デザインの役割をちゃんと見直すべきときだということを、グッドデザイン賞が今年新しく掲げた「サステナブルデザイン賞」がメッセージしているのだとすれば、僕は大賛成です。
難波:住宅の審査のほうでは、建築的、空間的なエコを実践している作品が、建築家たちが設計しているものの中に出てくると期待していたのですが、期待したほどの数が出てこなかったことは残念に思いました。
柴田:これにはいろいろな矛盾もありますが、作らずに済むものもあれば、作ることで解決していかなくちゃいけないこともあると思っていて、私の審査ユニットでもそのような提案性のあるものは少なかったように思います。
ただ、それぞれのデザイナーが自分のプロジェクトの中で実現しようとしていることについては、その意図をくみとりたいと思いました。そこにデザイナーの知恵で1つでも解決できることがあればいいなと思っています。私もプロダクトデザイナーとして耳が痛いところもあります。

■ ロゴマーク問題

柴田:毎年ですが、審査委員の立場ではなくユーザーの立場で応募商品を見ていると、これは何とかしてほしいという事柄がなにかしらあります。今年の審査で気づいたのは「ロゴマーク」です。
例えば、私たちが使う洗濯機・冷蔵庫などの家電製品に、テレビCMに出てくるようなロゴマークが付いているといったことです。テレビCMで訴求するためのコミュニケーション用のロゴと、私たちが生活をともにする物に付けるロゴというのは違うんじゃないかと思います。
ロゴ以外にも、本体の液晶とかスイッチに使われている文字について、同様に見直しが必要だと思いました。プロジェクトの大きさによって、そこまでちゃんと時間をかけてデザインできていないというのが現状かもしれませんが、それについてはこれから私たち工業デザイナーも真剣に取り組まなくてはいけないと思いました。
エンドユーザーが何とかしてほしいという気持ちがあっても、その声はなかなかメーカーまで届かないので、グッドデザイン賞がそういう問題を取り上げることで、少しでもよくなったらいいなあと思います。
難波:住宅でも、買うときはスイッチの位置や使いやすさというのに注目しがちですが、生活者の立場から言うと、例えば1〜2年経ったらそんなことは忘れています。体になじんできて、帰ってきてドアを開けて玄関で手を伸ばせばそこにスイッチがあるというふうになるという、視界から消えていくというのかな。住み込んでいくとかたちが消えていくんです。反復してそこへ住み込んでいくことが住宅の本当の力とも言えるでしょう。分かりやすさというのは、最初目につく分かりやすさと、本当にその人がそれを使い込んでいくときに必要なメッセージの落差というか違いがあるのではないかと。最初に買うときと時間がたったときの違いをデザイナーは意識しないといけないと思います。

■ 来年度グッドデザイン賞審査への希望

難波:100年に一度の経済危機と言われる状況下ですが、なんとかみなさんに頑張ってもらって、次のステップへ行っていただきたい。とくにということでは、タワーマンションの大手ディベロッパーの人たちに一番頑張ってもらいたい。社会現象としてのタワーマンションに僕は期待したいと思います。
益田:グッドデザインってどういう制度なのかということを、一緒に考えていきたいと思うんです。これはある種のコンペですから、出題するほうというか、こういうのが欲しいんだという問いかけに対して、こうでしょうという関係が成立するととてもおもしろくなってくる。ビッグサイトの審査会場も「グッドデザインエキスポ」といって公開しているのですから、イベントを見に来た人に、こういう生活、暮らし、社会をデザインで実現しようとしているのかというのが見えるような状況を作っていきたいと思うんです。ですから、受かった落ちたという話ではなくて、応募者の皆さんと一緒に近未来を見せていくような運動にできたらすごくいいと思います。
柴田:私自身もグッドデザインの審査をやって、年々いろいろな矛盾を抱えたり悩みを持ちつつも何とかやっているんですが、審査する側も応募する側も、私もどちらの立場にもなりますが、あきらめずにやり続けるということで見えてくるものがあるのではないかと思います。最終的には日本のグッドデザインがプレミアム感のある更にすばらしい賞になっていくことで、日本のデザイン全体がよくなっていくのでは。そのためのしくみを一緒に考えていきたいなと思います。