2008年度受賞結果の概要

2008年度グッドデザイン賞 審査講評会

第4回「コミュニケーション領域」(2008年10月21日開催)

  • C16ユニット長 永井一史(アートディレクター)
     
  • C17ユニット長 中谷日出(映像アートディレクター)
     

■ ユニットC16(企業などが行う広告、広報、CSRなど)審査講評

永井:2008年度の審査では、近未来のディマンドサイドに立つという全体としての方針がありましたので、より生活者の視点で審査するということを心がけました。審査委員の佐藤可士和さんと佐藤卓さん、そして私の3人で相談し、ユニットC16としては(1)アイデア、(2)表現力、(3)コミュニケーション力を念頭に審査しようということになりました。

1つ目のアイデアというのは、よくアイデアがあるとかないとか、これはいいデザインだ、そうじゃないというときの一番基本となるところで、やはりデザインというのはある課題に対する一つのソリューションだと思います。そういうソリューションの視点がきちんとその中に込められているか、というのがまず1つ目。
2つ目の表現力というのは、視点はすごくよくても、それが最終的な表現としてきちんと定着されていなくてはいけない。当然デザインなので、形あるものないものいろいろコミュニケーションの場合はありますが、ディテールにおいてもちゃんとある種の完成度があるものに関しては、表現力がある水準に達していると評価されるというものです。
3つ目のコミュニケーション力は、ちょっと聞き慣れない言葉かもしれません。デザインというのは当然ユニバーサルにすべての人に、という視点を持たなければならない。しかし、例えばコミュニケーションで、ある程度高齢の方々に対してもデザインといったときに、そのもの自体はとてもよくても、相手にきちんと届いているのか。その点をきちんと見よう、というのが3つ目のコミュニケーション力。伝えたい人にきちんと伝わり切っているかということを踏まえて評価しました。
これら3つの評価基準は、個々の審査対象に厳密に適用しているわけではありませんが、今回受賞したものに関しては、どの点についてもバランスよく、きちんと評価を得たものが受賞しているということをご理解いただければと思います。

今年の傾向としては、特にこのカテゴリーは形があるものないものいろいろあるのが特徴ですが、デザインはかなり広がっていて、NPOや企業のCSR活動のエントリーが増えたように思います。それはとてもうれしく、良いものは積極的に評価していくようにしました。その一方でまだ過渡期かなという部分もあって、良いことはしているのだけれども、最終的にそこに本当にアイデアがあるのかや、本当にそれで人に伝わるのか、影響力があるのかという観点でみると、評価しきれないものもあり、そのようなものは残念ながら不通過となりました。しかし、非常に意欲的なエントリーもあったので、個人的には来年以降そういうところに期待したいと思っています。

■ ユニットC17(デジタルメディアなど)審査講評

中谷:デジタルメディアのユニット17の審査委員は、福冨忠和さん、宮崎光弘さん、タナカノリユキさんです。この領域については、非常に審査に時間がかかります。審査対象をただ見ていればいいという状況ではなく、われわれがまずしなければならないと思ったことは、とにかく階層になっているものはすべて見て判断していこうということです。

一つ一つの審査対象について審査委員全員で話し合っていきますが、その審査対象の商品性や方向性、サービスによってまったく尺度が違うものですから、いろいろな意見を戦わせながら審査をしました。結果として、このカテゴリーは総応募数の約半数がグッドデザイン賞受賞となり、ほかの領域からするとちょっと多い感じになっています。

デジタルメディアの領域は、サービスやさまざまなコンテンツの広がりが顕著で、応募数も増えていますが、今年は以前に比べて2次審査に進む率が非常に高くなりました。率直な印象は、今年は全体の水準が非常に上がっていると言えると思います。
他方、ウェブサイトの領域は、そのデザインの成熟とともに非常に平均化しているように思います。ですから、ここで何を評価軸にしてどういう判断をしていくかということが、このユニット全体の審査ポイントにもなりますが、デザインは時代との響き合いといいますか、時代の映し鏡的な面も十分にあり、その中で時代をより引っ張っていくようなサービス、デザイン、コンテンツをグッドデザイン賞として評価していくことが必要なのではないかという視点の下、何が時代を切り拓いていくのかというポイントで審査にあたっています。プラスアルファや、新しい時代を切り開くものとなると、どうしてもアート的な表現に方向性がむかってしまう可能性もありますが、われわれはアート性よりは、グッドデザインのベースは何なのかということを考えながら評価しました。ですから、全体的に平均レベルは高いのですが、よくあるデザイン、サービスとなると、場合によってそういう視点で通過できない作品も数点ありました。
今年の傾向としては、応募作品の拡張もあり、さまざまなパフォーマンスも含めてデジタルサービス、コンテンツも増えています。特に携帯に関するコンテンツサービスの応募が多くありました。携帯コンテンツ、サービスは年々増えています。これは今年にとどまらず、来年もどんどん増えていくだろうと思います。
時代を作る、時代を先導するようなサービスやコンテンツに関心を持ち、その商品が持つ性格にできるだけ真摯に対面し評価していこうと思っています。

■ 質疑応答

Q:今後のパッケージデザインのあり方や方向性について。

永井:現代のようにここまで物があふれていない時代には、例えばこんなに立派なつくりになっています、というようなことが評価されていたこともあったと思います。しかし、やはり今必ずしもプラスの足していくデザインが評価されるとは限らない時代になってきたといえます。商品として、高級感やブランドの世界観を表現するときには、足していくデザインもありだと思いますが、今そうやって何か足していくということに対しては、必ずしもポジティブに評価できないことは確かです。

むしろこれならそのままのほうがいいのではないかというのが、ここ2、3年われわれ審査委員の中でもあります。これはデザインはいいけれど、ここまで欲しくないとか、終わった後どうやって捨てるんだろうとか。特に佐藤卓さんはパッケージの専門家でもあるので、材質は何を使っている、これはリサイクルできない、といった細かい情報までわれわれにいろいろ教えてくれるので助かっています。今まででは、デザイナーは自分のクリエーションと商品の課題を掛け合わせて素直に作っていればよかったのが、そこに環境というもう1つの要件が入ってきたことによって、デザインすることがさらに難しい時代になっているのかなという気はします。

Q:ウェブデザインなど形のないもののデザインはどうなっていくのか。

中谷:デジタルメディアは、これからどんどん拡張していく領域だと思いますので、ここから大賞が出るように進化していってほしいと審査委員としては強く思っています。形がある、ないはデザインにおいては関係なく、その中で時代に呼応した適切な表現ができているかということがポイントだと思います。

さきほどウェブは成熟とともに平均化したという話をしましたが、審査しているときも、デザイン的には申し分ないが普通、という評価を審査委員がします。それもすごく大事なことだと思います。ただ美しいデザインというだけでは物足りなくなってきているところがあります。

永井:ウェブはテクノロジーがかかわってくるので、どうしてもイノベーティブなものに目が行きがちですが、例えば自動車なんて1つの原形を何十年にもわたってずっと練り上げながら変化していくもので、ウェブも成熟に向かったときには、そうやって練り上げていくということもすごく大切な仕事なのかなという気はしますね。

中谷:そうです。ウェブデザインの仕方、創造の仕方が割と画一的な状況になっている中で何を評価していくかということも、きちんとわれわれが示していかないといけないという気がしています。

永井:初音ミクのような今の世の中のムーブメントは、そういうものをきっかけにしながら大きなものになっていって、みんな参加しながら発展していく。初音ミク現象ということが、ある種デザインの新しい形ではないかという印象を受けます。

中谷:ある意味集合知に代表されるような、参加して物を作れるということだと思います。そのムーブメントが生きているということですね。

永井:だから、それは多分今までの固定した、特にプロダクトのデザインとかでは全くないデザインというか、みんなで生み出していく新しいコミュニケーションとかデザインの形の1つのきっかけではないかなという気はしました。

質問者:今年のグッドデザイン賞の基準になっている近未来の生活者の視点とは、どれぐらい先の近未来のユーザーを想定しているのか。

永井:その中でのキーワードとしては、やはり送り手の立場じゃなくて受け手の立場というのが大きな立ち位置の変化です。特にコミュニケーション分野では、もともと送り手の立場よりは受け手に伝わるかという観点で選んでいるので、ほかのカテゴリーよりそこに差はないと思います。生活者の立場でといったときに、「一番売れている商品がグッドデザインか?」というと、違うということだと思います。デザインというのは現状より未来をつくっているものだと思うので、具体的にそれが10年先の未来なのか来年かは分かりませんが、まだまだ人が認めていないものでも、審査委員のプロとしてのセンサーでそういう見えないものを見抜いていくということを未来と呼んでいるので、1年か10年かということには特にこだわっていません。そういう意味だと、審査委員がそのカテゴリーのプロとしてピンときたものに対して評価しているというのが実情です。

中谷:私自身はテレビの仕事をしていまして、テレビというメディアの中で近未来を考えたときに、5年、10年、15年というスパンで物を考えているものですから、デジタルメディアの審査を担当するに当たっても、そういう領域で実際にメディアが今後どう展開していくのか、テクノロジーの進化とともにソフトやサービスがどう変わっていくのかという視点を忘れないようにしています。ただ、末広がりに展開していく作品だけが良い作品ではないということも前提に、当然今大事なものもたくさんあって、極端な話、将来的なテクノロジーの展開を考えたときにはどうかと疑問に思われるものでもちゃんと評価していかなければいけないという視点を持っています。

どうしても、すごく広がっていく商品になってきますと評価が高くなってしまうのは仕方がないとは思いますが、それだけではないと感じます。今年のテーマが近未来を見据えたというのは、グッドデザインの広がりとともに新しいモードとしてそういう概念を打ち立てているとわれわれは判断しました。

質問者:ウェブサイトの成熟とともに平均化しているというお話がありましたが、レベルが高いがよくあるパターンというのが、私たちもいろいろ物を作っていく上で越えなければいけない壁だとは思います。それを越えて時代を引っ張るものになるためのハードルのようなものはどこにあるとお考えですか。

中谷:例えばウェブサイトデザインが、ブログやSNSのような世界にどんどん枝分かれしていっている中で、新しい表現とは何なんだというと、やはり新しいテクノロジーとデザインのかかわり合いの中で何が生まれてくるかだと思います。テクノロジーが進化するとともに、もちろん表現するもの、バリエーションが増えると思いますので、私はやはりテクノロジーを見据えずしてデザインはできていかないと思いますので、進化とともにデザインがどう進化していくかということを考えていただけるといいかと思います。

ただ、ユーザーにとって必要ない進化は必要ないと思いますので、ウェブデザインの中にそれが求められるかどうかというのは、別の問題でしょう。僕がイメージするには、これからも当然ウェブサイトの進化はデザイン的な進化も含めてあると考えています。

今、ユニバーサルデザインという考え方、ユーザーフレンドリーなウェブサイト上でのアプローチはすごく画一的になっているような気がします。こうやっておけばいいやという感じです。もっとそこにもチャレンジがあるんじゃないかなと個人的に思っていまして、そういうものが出てくると、一も二もなく金賞みたいな勢いが出てくるんじゃないかと思います。その辺をこれからぜひチャレンジしていただけるとありがたいです。