2008年度受賞結果の概要

2008年度グッドデザイン賞 審査講評会

第3回「身体の移動 領域」(2008年10月20日開催)

  • C12ユニット長 山村真一(インダストリアルデザイナー)
     
  • 同委員 沢村慎太朗(モータージャーナリスト)
     
  • 同委員 松井龍哉(ロボットデザイナー)
     
  • 同委員 木村徹(インダストリアルデザイナー)
     

山村:今回からグッドデザイン賞の審査の概念が変わりました。従来は、審査の視点がともすればメーカーサイドであったり、行政サイド・マーケットサイドに寄る傾向がありましたが、今回は特にデマンドサイド、つまり消費者サイドから見た視点を重点的に考えていこうという前提がはっきりしました。これは、全部門の基本的な考え方の大前提です。それを受けてこの部門として大きく変わったことは、“身体の移動”に用いられる機器設備という分け方になったことがあります。去年までは自動車、オートバイ、鉄道車両、および関連商品という商品カテゴリー別での括り方で、たとえば自動車と鉄道車両は別の審査部門でしたが、どちらも「人間を移動させるためのツールである」という大きなフレームの中に位置づけて、新しい領域となりました。
このようなことが大きく影響したのか、今回は従来の二輪車、四輪車、そのほかの移動機器・輸送機器と称されるものに対して、さらにシステム提案にあたるものが特に多かったように思います。
これはおそらく、社会全体が非常に大きく揺れ動きつつあるということ、すでにこの審査の期間においても極端に変動する燃料価格や、高騰する資源の価格とか、あるいは環境に関する問題意識を伴った社会運動があちらこちらで起きていましたが、そのようなことが具体的に影響したのではないかと思います。
そういったリアルタイムの社会要因が大きく影響した、それに加えて従来からのものが応募されてくるので、対象数が今までの何倍もあったというような意味ではなく、質の違い、本当に幅の広い領域に及んだ審査であったように思います。
そのときに我々がやや悩んだのは、これから起こり得る新しいトランスポーテーションシステムや、それが出現することで社会に新しく影響が出てくるであろう、まさしく身体移動という領域の未来に関わるもの、あるいは現在のシステムに関わるもの、すでにいまの時点で生活に密着して完成度が上がってきているようなもの、その中でもスポーツカーや、オートバイのようなエンターテインメント性であったり、享楽性を求めていくような世界のものなどなど、それぞれのカテゴリーの価値観が本来はずいぶん違うところにあるものをどういうレベルで選んでいくか。そういう議論が、全体の審査を通じてつねに多かったように思います。
それから、将来の世界に与える社会的な意味について考えようという方針があり、現在だけではなくて、それが、何年、あるいはもっと先の社会の中でどんな位置づけをされるのかということも、大きなテーマであったということを初めにお伝えします。

■ iQとFCX、DMVー日本が発信する3つの革新

木村:未来に対する影響度と言うか、チャレンジ度で見ると「iQ」(08C12006)は、3メートルを切る全長で4人が乗れて、コンパクトで普通車のように扱える車という点では、今まであったようでなかったんですね。非常にコンパクトなエンジンで、しかも非常に安全。ここまで全長が短くなると、後ろから衝突された時のリアシートの安全性確保は非常に難しくなってくるんです。そこにもエアバッグをつけて、後席に座っても安全に過ごせる。小さい車で、もっときちんとしたものが欲しいんですよという市場のニーズに対応している。日本の街の中で乗るときに「そんなに大きな車は要らない。でも、小さくてみすぼらしいような車はイヤだ。小さくても普通車のように、しっかりしていて、しかも扱いやすい車が欲しいんだ」という意識は、潜在的に一般のユーザーの中にありました。それにきちんと応えたところが非常に評価されたということです。
小さい車はどちらかというと、自動車メーカーとしてはあまり作りたがらない。収益性などでも、作りたい車というのは大きい車ですよね。でも、次の時代を考えた時には資源も無駄にしてはいけないし、燃料も少なくて、占有面積も取らずに、ふつうに扱って乗れるという、これからのユーザーのニーズを真正面から捉えて作ったという意味で非常にチャレンジングであり、私は評価しました。

沢村:iQ」は小さい車でエコロジーということが基本的なスタート地点だと思うのですが、ただ、小さくて安いものというのは別にトヨタが作らなくても、たとえばヨーロッパのメーカーが、旧東欧圏向けに作っているような「安いからいいでしょ」的な車は結構あるんですね。でも、先進国ではそういうものは商品にならないという点でメーカーが悩んでいるわけです。
ではどうすればいいか、ひとつはBMWが作った「NEWミニ」が、250万から300万円でもかなり売れています。これは昔の「ミニ」をモチーフにして、乗ると文化祭の模擬店やディズニーランドのアトラクションの中にいるように楽しい、というエンターテインメント的に価値づける手法に則しています。
それではトヨタが何をやるか、この「iQ」ではそういう文化祭的な遊びはしていないんですね。どちらかというと正攻法で、大人向けというか、小型車にないようなしっとりとした空間を作ろうとしている。“小さかろう、安かろう”でもない。子どもっぽくもない、大人が乗れるものだというところを考えているのではないかと思いました。

山村:沢村さんが申し上げたように、小さくてもピリッと辛い、インテリジェンスの高い、iQ度の高い賢そうな感じと、さらに安全性ですね。これは、軽自動車では特に大きな問題になる後突の防止のために、9つのエアバッグシステムを採用して、3メートルを切る小さなボディに、後ろから後続車が当たってきた時に、本当に人が守れるかというところまで、相当突っ込んだ安全対策が盛り込まれています。コンパクトでキビキビと走り、非常に人馬一体で心地よい乗り心地というのはもちろんあるわけですが、“人が守れるかどうか、人の命が本当に救えるかどうか”という究極の見方をしていくと、今までの小型車には、どこか、安全性に対してはもう一歩という部分があったのではないか。その究極の改善の集積がこの「iQ」に表されたのではないでしょうか。

松井:FCXクラリティ」(08C12009)は、日本車の中から次世代の新しい車を作っていく構造とか、従来の自動車産業とは違う新しいエネルギーが生まれることによってもたらされる新しいヒトと車の関係、移動体がもつ新しい構造の力学を見せてくれたと思っています。“ゼロミッション”という目標はありますが、その技術を非常に素直に、開発やデザインに活かしている。
この「FCXクラリティ」ができることによって、水素ステーションなどを新たに作らなくてはいけないということになってくる。大きな意味でのイノベーションを起こす可能性を持っているということですね。日本の車がそういうことを具体的な形にして見せたということはエポックメイキングだと思います。
私個人としても、例えば外国からたくさんお客さんが来る時に迎えに乗って行きたい車は、今だったらこれだなと思います。やはり日本の独自の技術で、世界のどこに出しても全然次元の違う提案をしている部分でも、抜きん出たデザインだと思っています。
実際に試乗しましたが、予想よりもノーストレスでした。なるほどと思ったのは、デザイナ−が車らしいデザインにした、ということでした。これまでの“車”ということを意識したデザインにしている、突出したものにしないようなデザインの心配りが、デザイナ−の意識にはあった。非常に車社会に対して気を使っている点ではないかと感心しました。

木村:私も評価したのはその点で、燃料電池などを使うと非常に熱を発生するため、普通の車以上に冷やさなければならず、ラジエターの開口面積などがたくさん要るわけですね。そのためかたちは大きく変わります。しかしホンダは「普通の車に燃料電池を積んでいるにも関わらず、普通と何も変わらないんだよ、技術的な特性を表にわざわざ出さずに、従来の車と変わらず何の抵抗もなく乗って欲しいんだ」という姿勢が非常によく伝わりました。

事務局:今年初めてのサステナブルデザイン賞に選ばれた、北海道旅客鉄道の「DMV」(デュアル・モード・ビークル)(08C12021)についてはいかがですか。

山村:DMV」は新技術の発明的なイノベーションというよりは、従来からある技術を実にうまく組み合わせていて、これからの都市交通あるいは地方交通のあり方に向く仕組みが評価できると考えています。鉄道と道路を自在に載ったり下りたりできるということだけではなくて、3両4両と連結して線路を走行しながら、道路に出て行くときには1両ずつになって各家庭やバスターミナル、僻地の病院などを回りながら、また鉄道に載ってたくさんの人を一気に動かせるという、非常に不思議な乗り物です。現実的な技術の積み重ねで、現実社会に今すぐにでもアプローチできるような革新のかたまりであるといえると思います。
DMV」で一番難しいことは、日本は非常に道路交通法という法律の枠が厳しくて、どう法律と折り合いをつけて社会に定着させていけるかという点です。

松井:DMV」については物のかたちとしてどうなのだろう、と思われる方がいらっしゃるかと思うんですが、こういうもののデザインには2種類のセオリーがあります。機器類を隠すデザインと、それらを見せるデザインというのがあります。オートバイなどはメカニズムをいかに、どうかっこよく見せるかがデザインのカギになっているので、見せてしまって面白がらせることで、こういうものが必要なんだということをいろんな人にわかってもらうというアプローチもあるのではないでしょうか。

山村:今回は、新しいレボリューションの固まりともいえるホンダの「FCXクラリティ」と、まさしく技術の積み重ねにより、集積と改善できっちり作りあげていく「iQ」との非常に両極端な特徴が目立ったところでしたが、そこにもうひとつ、「DMV」が、いま地方の交通体系が崩壊しつつある状況をシステムとして救えるのではないでしょうか。それぞれが、これからの日本の技術を世界に伝えていく大事な3点であったということを付け加えます。

■ 移動のためのロボット・デザイン

松井:ロボットそれ自体は、産業としてのポジションがなかなか確立していないという点で、ロボットというプロダクトの定義もなかなかできてはいないんです。かつてソニーの「アイボ」が市場に出てから8年、さまざまなメーカーがロボットを出していますが、ロボットそのものをプロダクトデザインとして捉えたときに、実際に本当に人間の役に立つもの、ロボットを環境の中のひとつのシステムとして捉え、それが我々人間の生活にきちんとした利益を提供してくれるものでないと、デザインとしてはなかなか認められない。
トヨタのふたつのロボットは見た時に何をするためのロボットか、ということがはっきりしている。環境を設定して開発している点で、ロボットをこれから新しく産業として推進していこうという意志がはっきりと見られることはまず評価ができます。
さらに、人間の移動を助けるロボットというテーマを、トヨタの未来に向けた新しい経営を支える柱として打ち立てている。メーカーとしてどういうビジョンでこのロボットを作っているかがはっきりわかる点も、非常に評価が高いです。
それから、ロボットというのはどちらかというと“制御”するものです。その制御の仕方が非常にレベルの高いものだということも、評価のポイントになりました。
若い人の中にこのロボットに「乗ってみたい」という人が非常に多かったんですね。僕自身も乗り物が基本的には何でも好きで、人間が作ったものに移動を依存するのって本当に面白いんですよ。そういう中でまったく今まで経験の無いようなことを体感できそうだな、と思わせてくれたということで、やはり“デザインの力”が感じられるのはとても意義ぶかいと思います。

木村:僕も乗ってみてびっくりしたんですが、非常に楽しかったですね。特に、自分の体重移動で動かしていくというのは非常に面白いと思います。
たとえば今、駅前は自転車がいっぱい、大学のキャンパスも自転車で歩けなくなっているような問題が起こっていますが、こういうものがあれば電車の中まですっと持っていけるし、電車を下りてから学校まで行ける、仕事場まで行ける。しかも駐車場所が要らずに自分の席まで持っていき、かばんの横においておけるとか。こういうものが道路でも使えるように、道路交通法などの法律もどんどん新しくなっていって、日常の中で気楽に使えるようになると、世の中の景色は大きく変わってくると思うんです。早く公道で使えるように、行政も含めて変わっていって欲しいという期待も大きいです。

山村:センシング技術はこれからの移動体に重要ですが、一方の「モビロ」(08C12011)はセンサーの固まりなんです。このずんぐりしたかわいらしいボディの中にあらゆるセンサーが入っています。例えば、後ろから来た乗り物を避けるとか、前のヒトや車との距離を適度に保ちながら移動するとか、あるいは目的地点まで最短距離で移行していくといったことに、3次元のセンサー技術が実にうまく活用されている。さらに、ヒトが乗ろうとするとぐーっとひざまずく。こういうロボットがあうんの呼吸で人に近づくと見事にひざまずいて乗りやすい高さに下がり、乗ったらその重量を感知してスーッと立ち上がって、歩いているよりも少し高いアイポイントで移動していく。こういった制御の技術が非常に徹底されている。まさしくセンシング技術の成果ですね。
この「ウィングレット」(08C12012)や「モビロ」が制御の集積体であることは、制御とデザインの組み合わせがこれからいかに重要になっていくかということのまず第1歩を意味しています。このままの形、このままの製品でいいかどうかという話ではなくて、この場合は未来に向かってこの二つのロボットが果たすべき役割の意味で、私は高く評価させていただきました。

事務局:もうひとつ、「プチレンタ」(08C12037)というカーシェアリングのサービスについて高い評価をされていた松井さんに伺いたいと思います。

松井:デザインはものの単体で捉えるという考え方ではなく、ある環境を想定したシステムとして成り立っている技術であり、姿かたちなのです。僕なりの言葉で表すと、どのような作法がデザインになっているかということだと思います。そういった観点から考えたときに、考え方自体のシステム、環境をどういうふうに構成するかという仕組み自体もデザインとして十分評価できるのではないかと思います。環境の問題への対応に時代がシフトしていく中で、車を“所有”でなく、“共有”するという考え方は自然発生的に出てきているものです。
さらに経済的な理由から、これを利用したほうがいいという人がずいぶんいるんですね。そういった背景もあり、新しいタイプのデザインの評価基準として発展させていこうという視点もあります。
実際、自分自身の車がほしいと思う人たちはたくさんいるとは思いますが、そういう価値観でない世代が出てきているんですね。車も所有という発想ではなくて、いかに時間を共有できるか、そういうことがビジネスモデルとして通用してくれば、十分これも評価できるものになっていくのではないか。
それを実際にやったオリックスさんの行動力、先見性というものを評価したいです。そしてこういったケースが、ものづくりを担う側に対して、このようなものをどのように捉えればよいか考えるきっかけになります。新しい考え方に立って車の開発をしようという発想をメーカー側が持つべきではないでしょうか。“所有”でなくて“共有”するための車の開発という考え方もあると思いますし。もしかすると自動車メーカーが開発しなくてもいいのかも知れませんが、そういうこともグッドデザイン賞は、大きな意味でのデザインとして評価していきたいと考えています。

山村:今までの概念でいう自動車であったり、自転車であったり、オートバイであったり、鉄道車両であったりという縦割りの話ではなくて、おそらくデザインは横につながったものになっていく潮流があると思います。その中で、カード会社が新しい車両運行システムに真正面から取り組んで、所有から共有へのひとつの流れを作っていく。いろんな乗り物がカードなり携帯電話の情報ひとつで乗り継いでいけたり選べたりするようになる。そこに、新しい生活の多様なライフスタイルが浮かび上がってくるような気がします。

■ 軽自動車とオートバイのデザイン

木村:4輪車は、中途半端でコンセプトがしっかりしていないものはだんだん選ばれない傾向です。本当に実用的でもないし、遊びでもない……要するにコンセプトがはっきりしていないもの、未来を予測させてくれないものというか、そういうものは、おのずと選ばれないですね。明日をどう考えて捉えたのかをグッドデザイン賞として取り上げていきたいなと感じましたね。

沢村:FCXクラリティ」など、これこそが理想の未来の車かというと、車作りとしてはものすごく難しいところがあります。いろいろと車の内側に入れなければいけないものが、実は普通の車よりはるかに多い。
極論すると一般の車であれば、フロントにエンジンとトランスミッションを置けばいい。あとは燃料タンクをリアシートの下に放り込めばいい。ところが燃料電池車になると、水素タンクは必須、リチウムイオン電池の電気をコンデンサー代わりに使わなくてはいけない。燃料電池のスタックは要る。トランスミッションも要るということで、これまでの倍くらいものを詰め込まなければならないのです。だから今のところ、小さい車ではできないので、サイズを大きくしなければならない。それなら大きい車としてどう見せるか。いわゆるメカニカルパッケージ、必要なコンポーネントを包み込んだ上で人を乗せるものとしてどうすればいいのか、と。このクラスの大きい車のメインに対して、新しさと知性を盛り込んでこういう形になった。それが「FCXクラリティ」だと思うんです。そうやって、いわゆる、メカニカルパッケージがこれからどんどん変わっていかざるを得ない。それはデザイナーにとってつらいことなのかというと、僕は面白いことだと考えています。
1970年代にスーパーカーブームがあり、自動車のデザインが炸裂した時期がありましたが、あの時も、それまで車体の前部にあったエンジンがキャビンの後ろにいくことによって、メカニカルパッケージが大きく変わったんですね。当然、今までのコンサバーティブなものの考え方では成立しない、新しいことを考えていかなくてはできないことが要求されて、そのストレスによって新しいデザインの語り口みたいなものが出てきたのです。そういうストレスが自動車に関しては今ちょうど発生しているタイミングなので、これからが面白いと思っています。

山村:軽自動車は非常にがんばっていたと思います。特に“軽”という法規寸法の中で、いかにそれぞれの企業が個性化に挑むか。各社とも、小さなスペースの中で本当にそれぞれしのぎを削っていました。「iQ」の意味とは少し違って、まさしく日常使いのための非常に思い切ったレイアウト、あるいはコストバランスを思い切ってインテリアに振っていくとか、スタイリングとしても普通車に負けない、新しい軽自動車としての形をなんとか探そうとしている姿勢がよく見受けられました。
今回、軽自動車の中で選ばれた各車は、それぞれ違った形で細かいところまで工夫されたデザインです。例えば、リアゲートを跳ね上げると、それぞれのラゲッジスペースの取り方が全部違うわけですね。こういうところでは、いくつかの企業のデザイナーの説明も聞かせていただいたんですが、本当に細かいところまで考慮されているなと思いました。まさしく数ミリ単位の追い込み、あるいは、厳しいコストの中でのやりくり。実にリミット設計のなせる業で、日本人はこういうことがうまいなぁと改めて感じました。これから軽自動車がどうなっていくのか。「iQ」の登場も一石を投じていくだろうし、非常に面白い時代がやって来たのではないかと思います。

木村:私は今回の軽自動車でびっくりしたのがダイハツの「ムーブコンテカスタム」(08C12003)です。軽自動車というのは究極の、これ以上はもう安くはできないぞ、というところまでいろいろなものを研究して作っていくのですが、この「コンテ」のシートに座って驚きました。非常に座り心地がよくて、しかも、外から見ても結構お金がかかっているようです。要するに、軽自動車も今までの考え方から少し変わってきたかな、と。軽自動車としての次のことを考えていくと、なにか新しいオリジナリティ、独自のものがないと認められないのではないかという、ある種の危機感でダイハツさんがトライされたのだと思いますが、ともかくびっくりしました。これからはなにかひとつでも、これならばあの軽を買おう、と思わせるようなものを作っていけるのであれば、とてもいい傾向だと思いました。

松井:オートバイのデザインの評価に対して、そろそろグッドデザイン賞も基準のようなものが必要ではないか、ということが話題になりました。デザインというものがひとつの責任を伴っていると考えたとき、オートバイという乗り物の持っている機敏さや機械的な魅力などを全部含めた上で、オートバイのデザインに対しては非常にもどかしい部分を感じますね。つまり、あるスピードで走って、転んでしまう確率が高いものに対しての安全性など、なかなかやりきれない要素の中でデザインをしなければならない。
いわゆる工業デザインの中でとても大切なことは、やはり人に対しての思いやりや安全性なのですが、オートバイのデザインというものはいつもそれが宙に浮く。そういった中で各メーカーがしのぎを削って、毎回面白いデザインを試みる。しかし、本当にオートバイとしていいデザインというのはどのようなものなのか、一度みんなで考えなくてはいけない時期に来ているように思います。いろんな意味でのデザインという捉え方がある中で、それではイノベーションという部分が、オートバイというカテゴリーに今までどれくらいあったか、我々としても実際の現場でオートバイのデザインを担っている人たちと、ディスカッションの機会を設けてみたいと考えています。評価の基準が本当に新しいある種の視座が、いよいよオートバイのデザインには必要になってきたと感じます。特に、日本がその視座を率先して示していくことは、世界的に見るととても大切で意味を持つことです。

山村:2輪車という枠で考えると、自転車も2輪車ですし「ウィングレット」も「モビロ」も2輪車です。そういう意味では、2輪車は非常に期待される分野ですので、ぜひ新しい“2輪車”という枠で、いろいろな提案をグッドデザイン賞でもエントリーしていただきたいですね。自転車に求められるような、もっとも身軽で簡単に移動できるものがもっと出てきてもいいと思います。自転車もアシストタイプはずいぶん進化していてとても乗りやすくなってきています。より革新的なデザインで挑戦していくような、いわゆるモーターショーに出品されているようなものがグッドデザイン賞に出てくるのか、私は期待しています。