2000年度Gマーク刷新の方向と内容

1998年度の民営化以来3年、Gマーク制度はわが国のデザインインフラ拡充の尖兵であることを目指してきた。すなわち、グッドデザインを楽しむ生活を目標にしながら、既成のデザイン分野の変革を行い、デザインビジネスの活性化を進めていく。Gマークは、その先導役であり、組織改革を行い、模索と挑戦を続けてきた。2000年度の応募状況および審査内容を見る限り、こうした構想が理解され、定着してきたとの思いを抱いている。
Gマークの組織改革は、理念の再構築、対象範囲、審査項目や内容・方法、審査委員構成の再検討にまで及んだ。また、大賞審査の過程と各部門の金賞審査の最終段階も公開され、現物審査後の内覧会を含めて、「開かれたGマーク」への道を着々と歩みつつある。
IT社会化を睨みつつ、2000年度からは応募のWeb化を導入(何と8割がWeb応募)し、各審査委員による1次審査でもWeb審査が実施された。この挑戦は、デジタルデータバンクの将来的充実や、世界に向けて発信する日本のGマークへの大きな布石になるであろう。
さらに、従来からのテーマ賞(ユニバーサル、エコロジー、インタラクション)を拡充するため、今年度から、(1)ITやバイオなど先端分野に関わるデザイン、(2)素材・製品・空間・環境・システム、社会的価値等の側面からのデザイン的刷新の試み、(3)伝統的実績を持つ地域産業・伝統産業などの蘇生策をはじめ様々なデザインの取り組みを対象とする、「新領域デザイン」部門が新たに設定された。今年度はまだ認識や理解浸透が十分とはいえず、応募側にも多少の戸惑いがあったようだが、新領域部門はデザインの受け皿を大きく広げ、将来のGマークの屋台骨になってくれるであろうと考えている。

大賞A-POCと金賞審査について

個別部門の審査内容についてはそれぞれの審査委員の報告に譲るとして、ここでは大賞審査を中心に報告してみたい。

(1)水着「ファーストスキン」
(2)浴室ユニット「ユニリッチ」
(3)乗用車「シビック」
(4)スツール「8110HZ,GZ」
(5)コンピューテッドラジオグラフィー装置「コダックCR800システム」
(6)風力発電機「アウラ500」
(7)手話アニメーションソフト「マイムハンド?」
(8)A-POC(エイポック)

の計8点が大賞候補として公開審査の対象となった。だが、今年度の審査上の難題は、すべてが甲乙つけ難いうえに、同じ評価基準では比べようがないという点に特色があった。字数の関係で個別アイテムについて詳述できないのは残念だが(GOOD DESIGN AWARD NEWS No.010 掲載:MOTOO'S VOICE 第10回第11回参照)、6人の大賞審査委員がこの中から最終的に大賞に推薦したアイテムは3点。その内訳は上記の(1)2票 (7)1票 (8)3票と割れ、最終的に(8)A-POCが大賞に選ばれた。私個人としてはこの最終選択は、ここ4年程の大賞受賞がそうであるように、Gマーク大賞受賞を次世代デザインの鍵に、そして新しいデザイン分野の明示にというポリシーの継承として適切であったと考えている。
A-POCは、顧客参加、生産から販売までの垂直統合、多様な顧客対応といったデザインのトータル革命と、個別対応と量産成果という二律背反する条件を満たす生産革命、この両面において評価すべきものをもっている。アパレル産業の国際競争において、わが国独自の優れた手段となりうるだろう。ただし、現段階でのA-POCは、上記すべてのプロセスの完成度が今一歩であり、今後シナジー的に事業デザインがうまく運んだ場合という但し書きがつく。その意味で、A-POCへの大賞贈賞という応援歌は、大きな希望への第一歩として意義深いと考えた。

来たれ平成元禄、デザインこそ成熟社会実現のインフラ

民営化以降、わが国の美的快適デザインインフラの構築を目標に、極めて理念ドリブン(牽引)で変革を進めてきたGマークだが、その目標は、わが国の真の成熟社会の基盤となり、デザインに支えられた社会の発展や生活文化の成長が実現されていくことである。
元禄時代とは、後に世界を驚かせ多大な影響を与えた江戸文化の基盤を築いた時期である。かつて昭和元禄なる表現が使われたことがあったが、美学を伴わない文化の成熟時代などありえない。その意味では、高齢化社会を背景に、長い平和と経済的豊かさ、個の自立型人生の実現等に加え、美学を伴う成熟社会が実現できる可能性大という点で、まさに「平成元禄」こそ目指されるべきであろう。
デザインが日本の新しいアイデンティティを確立し、21世紀の幕を開く。そして、Gマークこそ、その主役の座にあってくれればと私は考えている。