ライフスタイルを提案する

今年度は、21世紀への世紀の変わり目のGマークとなる。日本の産業構造が「工業化社会から情報化社会」に変化する転換点にあって、応募商品から大量生産・大量消費型商品が姿を消し、新しいライフスタイルを提案する付加価値型の商品が大勢を占めてきた。
この「ライフスタイル型商品」は、バブル期を象徴する「イコン型商品」と異なり、「完成された製品」としての明確な最終形をもたない。ユーザーに合わせたカスタマイズや、新たなサービスやソフトウエアの付加、環境への配慮を実践する製品であり、状況に合わせて常に変化することを前提としている。
今年度金賞受賞の商品を見てみると、この特徴は、松下電器産業の新しい入浴スタイルの提案や中高年の健康志向に応えたジュ−サ−、アルフレックス・ジャパンの既存のインテリアとの調和を基本とする家具などに現れている。いずれもデザインの完成度を競うより、生活のなかで商品としての最適解をいかにユ−ザ−に提供するかに視点が置かれている。そこで重要なことは、ユ−ザ−が製品をどのようなイメ−ジで受け取るか、ということである。しかもユ−ザ−ばかりでなく、生産の現場や流通関係者全員に製品のイメ−ジが正確に伝わっていなければ、その製品は「ライフスタイル型商品」とはなり得ない。

コミュニケートする能力、革新する力

このように、今や「ライフスタイル」という新たな社会価値の「デザイン」は、企業の商品開発部やデザイナ−の専売特許ではなくなってきている。それは経営トップから流通の末端、ユ−ザ−に至る有機的なネットワ−クによって成り立つものである。
今年度「新領域デザイン部門」に応募され、新設の「デザインマネ−ジメント賞」受賞となった、良品計画の「無印良品」とNTTドコモの「i-mode」はその好例と言えよう。無印良品は明解な企画コンセプトを貫き通すことでブランド構築した先駆者であり、いち早く製造小売業という業態を立ち上げた。一方「i-mode」の方は、従来のマ−ケティング理論に頼らず、ユーザー自身にも見えていない潜在需要のかたちをとらえた企画力が評価されたと言ってよい。「i-mode」の成功は、企業が社会やユーザーと対話する能力「コミュニカビリティ」を持つことによっているのである。

革新を支える高度な技術力

今年度の大賞に決定した三宅デザイン事務所の「A-POC」は、21世紀のデザインを切り拓く革新性に満ちている。ファッションを完全な工業製品としてとらえ、生産過程での無駄をいかに省くかを追求した結果、織布の段階からデザイナーがコントロールできるようにした画期的な生産方式をとっている。しかもコンピュ−タを駆使したこのシステムは、デザインのイノヴェイションと製品の大量生産を可能にさせる副次的効果をもたらした。
A-POCと大賞を最後まで競ったミズノの水着「ファーストスキン」もまた、高度な技術開発によってつくり出された新素材を使用したものである。シドニ−・オリンピックの表彰台に上った6割の選手がこの素材を着用していたという事実は、日本の開発力の底力を見せたものと言えよう。

審査の評価基準と今後の展望

今年度の審査は、インターネットによる応募が8割に上り、1次審査ではインターネットとCD-ROMを利用し、各審査委員が十分な時間を費やし検討することができるようになった。したがって2次審査に進んだ段階で、各部門において審査の評価軸をかなり鮮明にすることができたと思う。
審査基準は、まず製品が「良いデザイン」である基本的要素をそなえ、生活をより豊かにする「優れたデザイン」「未来を拓くデザイン」であるかを問う。
「優れたデザイン」の評価ポイントとなる「ユニバーサルデザイン」や「エコロジーデザイン」は、今やかなりの企業が企画に取り入れ、デザイン界に定着してきた感がある。したがって特別賞としては、生産の川上から川下まで、どのくらいライフサイクルアセスメントが行われているかなど、より進んだ審査基準が必要になると思えた。
また「未来を拓くデザイン」の可能性は、世界市場を狙える新技術や新機軸の製品が、家電や自動車などのグロ−バルな競争力を持つ分野以外からも生まれてきている点にある。ミツトヨの測定機、岡村製作所のスツ−ルの開発のコンセプトは、NTTドコモのPHSモデムカードやホンダの乗用車と同根である。高性能な機能をいかにコンパクトにまとめ低価格化できるか、日本が今後も世界に伍していく産業力は、日本の文化そのものに根ざしているのだろう。さらに期待したい。