審査概要
今年度のソーシャルユース商品部門には、89社、137点の応募があり、その中から約半数の49社、73点がグッドデザイン賞に選出された。合格率は53.28%であった。他部門同様、エコロジーデザインやユニバーサルデザインへの配慮がうかがえるものも多く、もはやこれらは特別なものではなく、基本的にクリアすべき課題として認識される段階にあるといえそうである。
審査は、デザインにおける「ソーシャルユース」という言葉の解釈を、今一度問い直す作業から始まった。「多数による使用を想定した商品を対象とする部門」という括りはあるものの、教育施設用設備・機器、社会教育用設備、福祉関連器具・機器、公共空間用家具・設備・関連商品、屋外照明設備・機器、公園設備、公共・社会インフラ設備、非常用具・設備、鉄道車両、公共交通車両など、ここにエントリーしてくるものは本当に多岐にわたる。
そこで、審査基準の10項目に加え、多数による同時使用で社会の風景やシステム、私たちの生活が、より良く変わって行くもの、また少数の使用でも、そのシンボリックな存在によって、それに関わる多くの人々や、それを包含している社会に、より良い変化がもたらされるもの、というポイントも視野に入れながら審査は行われた。
また、細部についての所見として、今回は、安易なスケルトン使いに対する疑問や、ピクトグラムの質の低下に対する指摘があったことを報告しておきたい。公共性の高いものについては、特にピクトグラムの果たす役割は大きいと思われるが、なぜか、デザインの質、また分かりやすさ見やすさといった点で今一歩のものが多く見受けられた。
デザインの評価
金賞となったのは、三菱電機と文部省国立天文台によって開発された文部省国立天文台ハワイ観測所大型光学赤外線望遠鏡「すばる」である。最先端の技術で解明される情報を、ITなどを使って世界中の子供をも含めた広く一般の人々とシェアするための発信装置となる点が、21世紀の「知識・技術・情報の共同開発/共有システム」を予感させるものとして高く評価された。また、クーポラ状の天文台が一般的な中で、未来を感じさせる新しい形の提案がなされたこと、トータルなシステムとしてのデザイン開発のシナリオが存在することなどにも注目が集まった。
エコロジーデザイン賞に選ばれたのは、那須電気鉄工の風力発電機「アウラ500」である。デザイン面では、東京のアートフロントギャラリーを仲介としてフランスのアーティストであるジャン・フランソワ・ブランが関わることにより、軽やかで美しいスタイルに仕上がった。とくに羽の部分の的確なスケルトン使いや、受け軸部分での他素材とのジョイントの美しさは印象的であった。
また、発電機をローター内に内蔵し、コンパクトなサイズとなっているため、これまでの一般的な風力発電機と違い、使用場所が限定されないこと、そんな最小クラスの大きさであるにもかかわらず、クラス最大の発電性能を持つこと、さらに、パブリックアートとしてのシンボリックな使い方と平行して、災害時の灯りの提供という役目を担えることなど、エコロジーデザインの範疇から一、二歩進んだ製品のあり方を示したと言えよう。
この小型の風力発電機が家並のあちこち、また、なだらかな起伏を持った広場に点在するのを想像すると、まるでそれはアメリカのアーティスト、クリストの野外インスタレーション作品「アンブレラプロジェクト」のようで、見なれた風景を新鮮なものに塗り替える力を持っているように思う。
中小企業庁長官特別賞に輝いた中村多喜彌商店のハンギングシステム「コレダーラインシリーズ」は、遅すぎた受賞と言って良いものの一つだろう。これは国内外問わず、多くの博物館やギャラリーが使用している展示金具の定番である。「壁面を傷つけることなく大切な絵画作品などを迅速かつ安全に展示する」ために独自に技術開発された、バリエーション豊かなピクチャーレール、フック、ハンガーは、使い手のニーズに合わせていかなる組み合わせも可能である。パーツ一つ一つが極力控えめなデザインでありながら、完璧な仕上がりをみせており、デザイナーおよび中小企業の心意気というものが感じられる点が高く評価された。
その他、金賞候補にあがった三菱電機の誘導灯「KSH1701」は、いわゆる消防法によって設置が義務づけられている表示灯であるが、従来のものにくらべて、意外な程に小さく薄く軽いうえ、小さいながらも白色LED光源により均一な明るさを達成し、非常時にはバッテリー点灯に切り替わるものである。これは、従来製品の機能とデザインは動かしがたいものだと思っていたものを、鮮やかに裏切ったところに、着眼点の鋭さがあったと思う。
最後に、ソーシャルデザイン部門では、エポックメイキングとしてのデザインの評価の必要性について意見が出たことを付け加えておきたい。これは、コピーデザインを大量に生み出すほど、魅力的なデザインであるオリジナルデザインを、きちんとデザイン史の中に位置付け、再評価しようというものである。
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