ワーキングユース商品部門
川原 啓嗣 (株)キッド・ステューディオ 代表取締役	グループ3[産業機械・設備]	ワーキングユース商品部門 グループ3 グループ長

審査概要

グループ3は、産業機械・設備を主たる対象とする部門であるが、幅広い分野のため、例年、さまざまな商品が応募されている。本年は景気の緩やかな回復を反映してか、建機等の産業用車両の増加が目立った。また、一時、すっかり姿を消していた工作機械も、ワイヤ放電加工機などを中心にいくらか戻ってきたように見受けられた。
審査は1次審査(書類審査)、2次審査(現品審査)の2段階で行われ、1次審査はCD-ROMとウェブを使った、いわば電子書類審査であった。2次審査は東京ビッグサイトにて2日間を費やして行われた。また、続く3日目に行われた金賞審査は、ワーキングユース商品部門の3グループ間で協議を行うスタイルとして、応募者への公開のもと開催された。
グループ3の金賞候補として選出されたのは、 ミツトヨの「マニュアル三次元測定機」と日立建機ダイナパックの「ロードローラ」であった。検討の結果、ロードローラ」のエルゴノミクス(人間工学)的配慮の不足は否めず、金賞のレベルには達していないとの判断で、「マニュアル三次元測定機」をグループ3からの金賞と決定した。
中小企業庁長官特別賞の候補としては、レッキスの「チューブカッタ」とエンジョイ・アイウェアの「メガネ」が選ばれた。審査委員間で意見を戦わせた結果、商品の完成度、および操作性等に関して、より優位性が認められるとの判断で「チューブカッタ」を中小企業庁長官特別賞とした。

デザインの評価

金賞を受賞した「マニュアル三次元測定機」は、270万円という低価格でありながら、高性能三次元測定機に匹敵する高精度化を実現した現場測定用フレキシブルゲージである。カンチレバー構造の三軸ガイド部にはアルミ押し出し成形品が用いられ、低コスト化とともに軽量性と滑らかな慴動性を達成している。また、片側がオープンとなったことで測定範囲より大きい品物も搭載することができるなど汎用性も高い。さらに、操作性への配慮も優れ、液晶ディスプレイに表示される約200種類の操作モードはすべてアイコンで表現されている。初心者だけでなく、国籍を問わず誰にでも直感的に理解しやすいGUIを実現している。
この商品の最大のポイントは低価格でありながら商品の完成度が高く、操作性も極めて優れている点にある。製造現場で働く労働者が誇りと愛着を持って仕事を行えるように配慮したとのデザイナーの意図が随所に認められ、審査委員全員の高い評価につながった。
中小企業庁長官特別賞を受賞した「チューブカッタ」は、空調工事や給湯工事等に使用する銅管やステンレス管を切断する器具である。回転部にボールベアリングを採用したことで、切断時のトルクを半分以下に低減し、パイプの切断が容易になった。アルミダイキャストの本体はラウンドフォルムを採用しているため、素手で握っても優しくなじみ、かつ、作業用手袋を装着した状態でも操作に支障をきたさない。また、プロテクタ、および滑り止め部分に造形処理された樹脂パーツを配することで、心地よく、優しいグリップ感を持たせることにも成功している。作業用のハンドツールとして、使用方法が直感的にわかりやすく、誰にとっても使いやすいようにデザインされており、素材選定や加工仕上げも含め、製品の総合的完成度は極めて高いと判断した。

今後の課題

冒頭にも触れたとおり、本年は建機等の産業用車両の応募が、やや復活してきたように見受けられた。ただし、残念ながら、ある高所作業車の例のように、どう考えても事故につながる危険性をはらんだものも見られた。安全に対する配慮は産業機器が最低限満たさなくてはいけない必要条件であり、デザイン以前の問題ともいえる。これをクリアできない機器はいわば欠陥品であって、所詮、「商品」とはなり得ないし、これに気がつかない企業は遠からず消え去る運命にあることを、ぜひ関係者には認識してほしい。
また、以前より指摘されている作業者や運転者の労働環境改善、とりわけエルゴノミクス的配慮の不十分なものがまだ多く見られた。エルゴノミクスをうまくデザインに取り入れることは商品の質を格段に向上させる重要な要素であり、適正な利益を保ちつつ他社製品との差別化を図り、熾烈な競争を勝ち抜くポイントであるともいえる。
近年、工事現場などの労働環境にも女性や高齢者、あるいは外国人が進出し、さまざまな状況の人々に対応できる、いわゆるユニバーサルデザイン的配慮も強く求められている。したがって、表層的な外観の見栄えだけでデザインを捉えるのではなく、どうしたら顧客、およびユーザーに満足してもらえる「良い商品」となるのか、商品企画のスタートから根本的に考え直す必要がある。
ところで、2次審査に臨んだ商品のなかに、ユニークなメカニズムを採用し操作性に優れたフォークリフトがあったが、ディテールの随所に手抜きと思われても仕方のないほど粗雑な仕上げが目立った。議論を重ねた結果、止むなく落選としたが、意欲的な商品であっただけに、なぜもう少しデザインを考えなかったのかと悔やまれてならない。開発責任者、あるいは経営トップのデザインに対する真摯な理解が切に求められる。
当グループから推薦した商品からは「ユニバーサルデザイン賞」や「エコロジーデザイン賞」などの特別賞は選出されなかった。特別賞の受賞水準が高くなってきているため、選出されにくくなったことが考えられるが、それ以外に、企画開発段階におけるデザインコンセプトがきちんと構築されていないことにも原因があると思われる。未熟練労働者に対するユーザビリティー向上の工夫、あるいは地球環境に負荷をかけない配慮など、産業機械・設備にかけられる期待は今まで以上に大きくなっており、これらのテーマ賞とも決して無縁ではないのである。