ワーキングユース商品部門
川崎 和男 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科  教授/医学博士	グループ2[医療機器・コンピュータハード&ソフト]	ワーキングユース商品部門 部門長

評価の基本軸

ワーキングユース部門は、仕事、業務という環境のなかでの使用や利用されるモノや、運用され維持されるシステムを対象とする。この部門では、今回、共通して審査確認したことがある。
まず、今世紀最後の審査であることから、これまでデザインが果たしてきた役割を統括するような、総決算的なデザインの力が発揮されているかどうか、ということである。そして、もうひとつは、次世紀のデザインを方向づけるような理想性を、どこまでデザインとして果たそうとしているか。この点を見つめて評価したいということになった。
この2つの評価軸に共通していることは、形態のモジュール設定やスケール感の最適性、どこまでシンプルで確実な合目的性を実現しているか、インタラクションとしてのインターフェイス性の追求、消費から回収や廃棄、修繕などリサイクル性能のある素材選択を熟慮しているかどうか。そして、ロングライフとなりうる美しさに到達しているか、ということである。
また、商品としてはいわゆるコンシューマープロダクトではなくて、B to B (Business to Business)商品である。こうした商品は、流通業界や購入者の価値観と、作業現場でのユーザーの価値観の温度差がデザイン上でも多少生じやすい。しかし、デザインにとっては、あくまでも使用環境とのベストマッチング性やメンテナンスへの配慮が不可欠である。これは空間的・物理的な問題であるだけではなく、ネットワーク性やコネクティビティという関係性におけるデザイン解決がなされているかどうかが問われる。時代性や時間性までも考慮されなければならないということだ。

審査概要

今年度は、Webの画面上で1次審査が行われ、各審査委員個別に選別された。各部門で同時に第1次審査が行われたのだが、グッドデザイン選外商品の選定に関しては、審査委員の判断がまったく一致した見解に収まった。現物を見ないままに行われた、バーチャルないわば印象的な評価ではないかという反論があったとしても、審査委員の総意はまったく正当な評価になっていると断言できる。
1次審査での選定外に共通しているのは、当然ながら、デザイン意図やデザインコンセプトそのものに、デザインの根本的問題や時代性が反映されていないことである。
たとえば、「ベーシックなデザイン」とは、基本的かつ基礎的なデザイン条件を形態化するものではあるが、同時に先進的な時代性のある形態であって欲しい。ただ単に、技術をカバーリングするためだけのコスメティックな造形で商品を構成することが、決してデザイン的な造形処理ではないということだ。
これまでこの部門でGマークを受賞していた商品が、今回選定外となった場合には、革新していかなければならないデザイン性、その先進性やリード性が欠落していたということである。使用環境におけるモノとして、現場での業務支援だけでなく「働きがい」を感じさせる存在性を発揮させてほしい。「働きがい」は、「生きがい」につながるモノと人間・身体性との関係化である。いわば、職場でのユーザーとユーザーを支援するモノ・システムが、プロフェッションというアイデンティティを構築するデザインをどこまで理想としているかということになる。

金賞受賞商品について

以上を踏まえた上で、この部門での金賞は、見事に、今世紀のデザイン力のあり方と次世紀のアスペクトを提示した製品が受賞するという結果になった。
岡村製作所のスツールは、デザインの力でこれまでのスツールの究極的なかたちを提示している。技術的にも、生産での合理性や解体性にいたるまでのさまざまな問題解決を成し遂げている。敗戦後、日本の家具製造は、「ミシン椅子」と呼ばれた木製の丸スツールからスタートしている。そして今世紀最後に、デザインにおける集大成を、あたかも象徴的なレベルにまで高め、商品化させたことは賞賛されるべきだろう。
ミツトヨの測定器はアナログ性とデジタル性の機能を、審査委員全員が驚愕するほどのコストダウンで実現している。その統合的デザインは、製品としての美しさを完備しており、わが国のインハウスデザイナーとエンジニアのパートナーシップの勤勉さに感動さえ覚える。「モノづくり」が国内的にも低迷しているが、今後、アジアを牽引していく日本ならではの生産財的デザインのお手本と言っても過言ではないだろう。私の個人的な感想では、大賞候補となっても十分であると評価している。
コダックのラジオグラフィー装置は、次世紀への展望に立って自社のこれまでの商品を否定するほど革新性の高い、デジタル画像とネットワーク・システムを構築し、医療分野で世界的標準となるシステムデザインを統合的に完成させた例である。製品機器としてハードウエアのデザインだけでなく、ソフトウエアとしての画面インターフェイスのビジュアルデザインも、実に美しい完成度に仕上げられている。トータルに未来をデザインしていく具体的なデザインドメインは、デザインの今後を指示していると評価できる。
この部門は、とりわけ、ワーキング環境での空間と時間性と製品による「働きがい」までを支援するモノの体系である。C部門の3つのグループで金賞となった商品には、基本的なデザインの効果と効用を備えているだけでなく、未来を実現していく人間とモノと環境の革新性はデザインにある、ということを実証する説得力があったと考える。
まもなく新世紀を迎える。この部門は、「生きがい」を「働きがい」から獲得できるモノとシステムが、デザインによって支援されることを目標とする部門である。