ワーキングユース商品部門
島田 一郎 トリゴナルデザインシステムズ デザインコンサルタント	グループ1[オフィス・店舗]	ワーキングユース商品部門 グループ1 グループ長

審査概要

本年度のワーキングユース商品部門グループ1:オフィス・店舗の応募総数は、113点で企業数は62社であった。このうち28社46点がグッドデザイン賞を受賞した。合格選定率は40.7%であった。
本グループは、オフィス・店舗というその文脈から製品の成熟度の進んだ分野であり、また応募企業も常連化し、製品のレベルも全体に高い部門である。それゆえ、評価はよりシビアなものになった。
まず全体の印象であるが、バブル崩壊以後の元気のない社会状況の反映なのか、いわゆる右肩上がりの時代のもつダイナミックさは影を潜め、力不足の感は否めなかったといえる。一見、完成度は高いのだが、オフィスや店舗におけるワークスタイルを根本から見直し、再構築していくような提案力の高い製品は、残念ながら多くはなかった。
一方でエコデザインとユニバーサルデザイン思想の導入は、必要に応じてほぼ徹底されてきており、技術開発をベースにさらにより広範な社会的展開を期待させる。
またオフィスファニチャー系では、IT革命を背景に注目を浴びるようになったSOHO型のワークスタイル対応製品が多くあり、時代の流れを如実に物語っていた。IT革命は、オフィスに限らずショップなどにおけるワークスタイルを大きく変化させていくものであり、その対応にどのようなデザイン的ソリューションを与えているかなどに注目した。
またこのグループでは、パチンコ台やスロットマシンといったアミューズメント機器が昨年より応募されるようになり、審査委員を悩ませた。そもそもこの種の製品をワーキングユースという括りのなかで、しかもオフィス・店舗グループの扱いのなかで同列に評価することにどうしても無理を感じざるを得ず、大きな議論となった。その結果、これらは確かに店舗を構成するエレメントではあるが、一対一の関係が集合して独特の興奮を演出する仕掛けとして、すなわち、興奮のデザインとしてのアミューズメント機器の有様の基本に立って、わが国独特の文化としてどう評価していくのか、という本質論となり、今後はむしろ独自の部門を立てて評価すべき性質と意味を持つものであるとの認識を、審査委員全員が持ったことを明記しておく。

デザインの評価

本年、このグループで金賞に選ばれたのは岡村製作所のスツールであった。座を回転座としただけの極めてシンプルな製品である。エコプロダクトやユニバーサルデザインからの今日的なデザイン発想が、「座は動かない」という固定観念をさらっと打ち破り、使い手に心地よい喜びと感動を与えている。素材や機能性、使用性、経済性、生産性、審美性、空間や環境への対応性の高さなど申し分ない出来であった。このスツールに対抗して金賞候補を争った製品がインターオフィスのテーブルレッグである。これはあらゆる天板を支持するいわゆる「馬」で、アルミ鋳物の構造材を兼ねるケースと3本のパイプ脚、それらを固定する太いゴムベルトという、これもまた極めてシンプルな美しい形態と機能の優れものであった。奇しくもスツールとテーブル脚という対をなす、古くて新しい意味性を投げかけた2つの商品が最後まで議論の中心であった。どちらにも共通しているのは、人と道具の基本的な関係性を見つめ直し、質の高いワークスタイルの提案として完成度を高め美しく仕立て上げた点である。まさに、ここにこそ最も基本的な「デザインの力」「造形の力」を見てとることができる。
中小企業庁長官特別賞は、オルファのカッターナイフ「マガジンAL型」とした。このAL型は、替え刃をマガジン化し、刃の交換時に仕事のテンションを持続させて、その作業の流れを止めない工夫になっており、安全性と使用性を格段に向上させたデザインが評価された。また、1956年のデビュー以来、カッター一筋に実に多様なモノづくりへの実績とその弛まぬ同社の開発姿勢もあわせて高く評価されるものである。
ユニバーサルデザイン賞とエコロジーデザイン賞は、本グループからは該当製品はなかった。その他、審査過程で高く評価したものに、コクヨの会議用テーブル「KT-900シリーズ」、タピロの定規「tapiro1」、ライオン事務器のバインダー「HOOPシリーズ」などがあった。いずれもそれぞれの目的に応じた使用性、操作性を軸にバランスのよい完成度の高いデザインであった。バインダー「HOOPシリーズ」は、ユニバーサルなアプローチとカラーリングの新鮮さが印象的であった。また、パワー系の製品ではバーコード読み取りやオーダーシステム用のハンディターミナル機器で、キヤノンの「HT-280」、シャープの「RZ-A141R/RZ-141」などが注目された。さらにタカラベルモントの美容セットチェア「SC-D01」は、極めて成熟しているビューティーショップ向けとして、カラフルなスケルトンタイプの新素材ジェルマットを効果的に用い、機能性とファッション性を両立させ、魅力ある製品としているものと評価を得た。

今後の課題

時代価値は、IT革命を背景にいよいよ情報経済社会へのシフトを加速し始めた。生産・流通・市場・生活のすべての場面でこれまでの効率優先の価値観は変化せざるを得ない。人が主役を取り戻す空間・モノづくりを進めるソフトパワーとは何なのか。今回のほとんどの製品は、すでにその方向へのシフトとして生産パラダイムやマーケティングパラダイム、そしてデザインパラダイムの転換を強く意識し始めたものになってきている。しかし、生活者自身のライフバリューの創造にとって本当に必要なものとは、スタイルとは何なのであろうか。例えば今回の審査を通して、特にSOHO化に向けたワークスタイルの変化への対応ソリューションが各メーカーともほとんど同じ発想からできており、あまりにも押し付けがましいデザインになっていることに審査委員全員が危惧を感じている。提案と押し付けは紙一重であり、ついやり過ぎてしまいイメージの触発を邪魔してしまうことが多い。ある意味では、デザインのツボを心得過ぎていて嫌味になりかねないのである。その意味からも多様なパーソナルニーズへのデザイン的配慮に物足りなさを感じる。
これからのデザインは、モノ本来の使用価値を高め、使い手のイメージを創造的に刺激し、触発するものでなければならない。依存から自立へと生活価値を変化させ、デザインカルチャーを背景に、より高い感性消費を実践する生活者の自己実現意欲を高めるためには、彼らがライフスタイルを自由にコーディネートできる、参加の余地をもつ魅力ある素材(ファッションパーツ)の提供が求められてくるからである。道具や環境が多彩なイメージを刺激するファッショナブルでシンプルな、そして知性とスタイルを創造する共感と魅力あるデザイン。それを多様に展開するトータルなライフスタイルインダストリーとしての姿勢と、ソフトパワーの構築が重要となろう。