ファミリーユース商品部門
益田 文和 (株)オープンハウス 代表取締役	グループ1[日用品・家電・家庭用メディア]	ファミリーユース商品部門 部門長

審査対象商品について

今年度のグッドデザイン賞応募総数2,212点のうち、約2割の401点をB-1グループが占めている。B部門はファミリーユースとカテゴライズされているが、中でもB-1グループは家電、日用品、雑貨類などの、生活と密接した商品類をカバーしている。
このグループの商品群はいくつかのグループに分けることができる。一つには白物家電といわれるグループである。冷蔵庫、洗濯機、掃除機、その他いわゆる調理家電などが含まれる。二つ目はAV関連製品のグループである。テレビ、ビデオ、オーディオなどであるが、趣味性の強い高級オーディオ機器などは、パーソナルユース部門で審査される。
三つ目は情報機器群だが、携帯電話やパソコンの多くもパーソナルユース部門に回るので、ここでは家庭用の電話機やファクシミリなど家族で共用するものに限られる。さらに住宅用の冷暖房機器、空気清浄機などもあるが、工事を伴うエアコンなどの設備機器は住設部門に集められているので、このグループにあるのは可搬型のものが中心となる。残りの半分近くは園芸用品やペット用品、DIY、日用雑貨から位牌まで実にバラエティに富んだ商品群で構成されている。

審査概要

今年度は、インターネットを利用した応募とCD-ROMによる審査が試みられた。デジタルメディアの活用は大いに興味深かったものの、画像情報の再現性等の問題など、今後解決すべき課題が露呈する中で審査を行わざるを得なかった。
360点を超える応募商品を一堂に集めて行われた2次審査における第一印象は、全体としてデザインの成熟度が増し、安心して見られる商品が主流を占める一方、ジャンルによってはかなりの混乱が生じているという、商品分野間格差が目立つように思われた。
冷蔵庫を代表とするいわゆる白物家電のなかでも成熟商品のデザインは、本質的な使い勝手を追及するデザインに落ち着いた感がある。それに比べて、たとえば洗濯機などではさまざまなメカニズムの改良・革新が進行中ということもあって、まだまだデザインの落としどころが見えてこない。
一例をあげると、今年の冷蔵庫製品では各社とも、いかに開けやすいかというハンドルの機能そのものに着目し改良を加えることで、かえってユニークなハンドルを持ったデザインが登場している。その代表例が東芝の「GR-412FSK」で、ハンドルを押すとドアが開く自動ドアを採用し、ユニバーサルデザインの観点からも高く評価された。
一方、洗濯機では一昨年の遠心力洗濯機に乾燥機能を加えた、松下電器の縦型全自動洗濯乾燥機「NA-FD8000」など、多少の進展はあるものの、全般にデザインのテーマは見つけにい領域と言えよう。特に、操作パネルの表示は、読みやすさに対する配慮からだとは思うものの、ただ文字を大きくするばかりではいかにも工夫が足らない。
電気炊飯器には近年オーバーデザインの傾向があり、今年度の応募商品ではその傾向がさらに強まった感がある。素材の仕上げ、表示部分の扱いなど、どの要素をとっても複雑で、とてもおいしいご飯を炊くための道具には見えない。そうした批判が低い合格率に現れている。
同様に、審査委員が疑問に思ったのは、なぜ家庭用の電話やファクス、コピー機などがオフィス用のものに比べ、総じて過剰に、情緒的なスタイリングがなされているのかといった点である。家庭用をオフィス用と同じにするべきだとは思わないが、少なくとも使い勝手の良いスタンダードデザインが選択肢の第一番目にあってしかるべきではないか。
雑貨の分野では、リラクゼーションやガーデニング、ペットなどの関連商品が目立ったほか、水周りその他での整理・収納用品や食品用容器などに工夫が見られた。しかし、この分野の商品は第一にオリジナリティの欠如、第二にデザインあるいは製品の完成度の不十分さから受賞に至らなかったものが多かった。

デザインの評価

テレビや冷蔵庫とトイレブラシを同じ評価基準ではかることには無理がある。
そこで、熟成度の高いジャンルの審査に当たっては、細かい相対比較を元に無理に合否の線引きをするようなことはせずに、水準に満たないものだけを不合格とした。
それに対し、アイデアやスタイリングに依存した商品では、アイデアの有効性や機能性、素材や形態の表現におけるオリジナリティと適切さといった評価項目に重点を置いた。今年度B-1グループでグッドデザイン賞を受賞した商品のうち、審査の過程で特に議論を呼んだものについて見直してみたい。
まず、テレビではシャープの大型液晶ディスプレイテレビ「LC-28HD1」が、28インチで110万円という高価格に対し、商品としての正当性を疑問視する議論があったものの、検討の結果、テクノロジーの先進性を評価して合格とした。また、各社出揃った大型フラット画面のホームシアターでは、木質系カラーリングでまとめた三洋電機の「HVC-36DZ1」が評価を集めていた。
掃除機は、集塵袋がいらないサイクロン型や、排気の出ない方式などさまざまな機構上の工夫とともに、特異な造形やカラーバリエーションなど表現の幅が一気に広がったものの、新しい掃除機の原型となるような明快な提案は見られなかった。
家電製品の中では松下電器産業のジューサーミキサーが、中高齢者や単身者に配慮したコンパクトでシンプルなデザインと、健康的で明るい3色のカラーコーディネーションで共感を集め、金賞に輝いた。
雑貨類は、種類が豊富なわりに決め手に欠けたが、無印良品の取替式歯ブラシの省資源アイデアや、マーナのトイレブラシの、魚と波紋をモチーフとしたユーモラスな表現などが評価された。なかでも、日軽プロダクツの踏み台はシンプルで完成度が高く、中小企業庁長官特別賞を獲得した。
ガラス器では、ハリオグラスの耐熱ガラス製保存容器と、東洋ガラスの牛乳びんが使い勝手の良さから高い評価を得た。中でも、牛乳びんは軽量ガラスを用いた省資源、軽量化と、胴体中央部をくびれさせたデザインによって滑りにくく持ちやすくなっており、さらに樹脂フィルムをコーティングして耐久性を向上させ、リターナブル容器としての性能を飛躍的に向上させている。結果的にこの商品が今年度のユニバーサルデザイン賞に選出された。

今後に向けて

今年度の審査を通して見えてきたことの一つは、全般的に完成度の高まっている家電製品のデザインにも、エアポケットのような商品カテゴリーが存在することであり、メーカーが主体的に節度あるデザインポリシーを持つことを期待したい。
雑貨類に関しては未だ欧米の後を追い、市場の動向に振り回されているような状況が目に付く。しかし日常の道具である雑貨こそ、日本人の生活にとっての本質的価値を見つめた地道なデザイン開発が求められる分野であり、まだまだ多くの可能性が残されている。