パーソナルユース商品部門
戸谷 毅史 東海大学 教授	グループ2[パーソナルメディア]	パーソナルユース商品部門 グループ2 グループ長

審査概要と評価の方向性

パーソナルユース商品部門のグループ2:パーソナルメディアでは、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)、パーソナル・コンピュータ、カー・ナビゲーション・システム、パーソナル・オーディオなどのメディア関連機器、ならびにソフトウェアの審査を行った。
応募総数は94社、274 点であり、そのうち66社、160点をグッドデザイン賞として合格とした。合格率は58.4%であり、全部門の中で最も高いものとなった。この合格率が示すように応募商品の成熟度は高く、審査にあたっては造形の美的側面はもとより、操作に関わるインターフェイスの完成度を重視した。また、最新の情報技術をパーソナルな機器の中に、いかに適切に分かりやすい造形として落とし込んでいるかも審査の大きなポイントであった。
同一カテゴリーで最も応募点数が多かった携帯電話を例に、審査の概要を紹介したい。
携帯電話は合否の線引きが難しい商品であり、例年、審査委員の頭を悩ませている。携帯電話はすでに、単なる電話ではない。昔ながらの音声コミュニケーションのツールであることは勿論、電子メールの送受信やWebの表示端末として、またデータ通信の重要な窓口としての役割を持っている。
そして、これらの機能を提供しているのは携帯電話そのものではなく、通信事業者である。通信事業者ごとにサービス内容が異なる以上、単体としての携帯電話の機能の優劣を比較しても意味がない。そこで1次審査合格商品については操作マニュアルを取り寄せ、2次審査に向けてその読み込みを行った。
2次審査では、それを基に実際の操作手順の検証を1台1台丁寧に行い、審査委員間で討議を重ね、合格商品を決定していった。選に漏れた商品の多くは、明らかに間違った操作手順を強いるものか、ファンクションキーの使用頻度を見誤ったもの、そして、手順の検証ができなかったものであった。いかに造形性が高かろうと、商品モックアップの提示だけでは評価が下せない状況だということにご留意いただきたい。

金賞商品の評価

パーソナルユース商品部門は、「グループ1」と「グループ2」の2つのグループで審査を行い、それぞれのグループから金賞候補を選出し、9月1日に公開で行われた金賞審査会で部門としての金賞商品を決定した。
本グループからの金賞候補としては、インテルの「Intel Play QX3 コンピュータマイクロスコープ」、NTTドコモのPHSモデムカード 「P-in Comp@ct」、バング&オルフセンのヘッドホン「A8」がノミネートされ、公開審査会の席上でそのすべてが金賞に選出された。
「Intel Play QX3 」は、パソコンのUSB端子に接続するだけで倍率10倍、60倍、200倍の顕微鏡として機能する。パソコンのモニターに画像を映し出すことで、ミクロの世界を明瞭にとらえることができ、コマ撮り撮影機能を使えば昆虫や草花の成長を継続的に記録することもできる。玩具メーカーのマッテルとの共同開発商品であるため、顕微鏡にありがちな重厚な造形表現が払拭されている点も特筆できよう。この商品は顕微鏡というツールのデザインではなく、コンピュータマイクロスコープという、全く新しいパーソナルメディアの設計を果たしたものとして高く評価された。
「P-in Comp@ct」は、世界初のコンパクトフラッシュカード型64kbpsモデムカードである。 ノートパソコンやPDAのコンパクトフラッシュスロットに差し込むだけで、ワイヤレスでのデータ通信が可能となる。「P-in Comp@ct」は日本の得意とするコンパクト化技術を、最大限に活かした商品と言えよう。しかし単に最小化を図っただけではなく、ディテールに至るまでデリカシーのある造形処理が行われ、「通信によってデータを得よう」という気持ちをかき立てられる商品に仕上がっている点が評価された。
アルミニウムと硬質ゴムで構成されたヘッドホン「A8」は、バング&オルフセンの優れたオーディオ性能を保ちつつ、エルゴノミクスに裏打ちされた快適性と美しさを兼ね備えている。ユーザーの耳の形状に合わせて調整が可能な3箇所の可動部分は、類い稀な、そして何とも心地よい動きと精緻さを感じさせる。久々に登場した、所有する喜びを与えてくれるヘッドホンである。
先の「P-in Comp@ct」にも見られるように、精度の高い製造技術や、精緻さをたたえた造形は日本のお家芸だったはずである。「A8」のような製品は、本来であれば、日本から生まれて然るべきであっただろう。

今後の方向性

パーソナルメディアの多様性とその発展を促すような、そして生活に変化を与え、ユーザーの気分を増幅するような機器のデザインが望まれている。
今日的な日本文化を背景とした、国際競争力のあるデザインのあり方を真剣に考えなければ、この分野で今後日本の商品が優位性を保つことは難しいであろう。デザイナーには、技術の翻訳者として、確かな仮説提示能力とオリジナリティの高い造形力が求められている。