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2010年度受賞結果の概要

審査講評

ユニット8:オフィス・店舗・生産関連施設
乾 久美子 建築家

ユニット8で審査する対象は、オフィス、店舗、流通・生産関連施設など、企業活動に関わる建築空間で、いってみれば利潤を追求する施設です。しかし近年では、さまざまな次元で「つながり」の重要性が見直されつつあります。企業活動であったとしても、個人や社会における生活の営みの豊かさに結びつくべきではないかという理念をもとに審査を進めました。つまりデザインの方向性が、直接的でないにしても、なにかしらの形で社会に対して貢献していることを確信できるものを選出しました。
例えばオフィスの場合では、執務空間の効率やファサードの精緻さだけではなく、「働く」ことを再定義しているような作品を評価しました。あるいは店舗の場合だと、店舗の区画内だけをインテリア的にデザインするのではなく、店舗の周りに存在する街並や環境と呼応するような空間の有り様を追求したものを評価しました。また、宿泊施設では宿泊という概念そのものを根底から再定義するようなプロジェクトを高く評価しました。建築は都市や郊外の風景の主要な要素であることから、不必要に個性を追求するものではなく、風景の「地」となりえるような良質な普通さや普遍性を感じるものを積極的に評価しました。また、合理的で的確な建設手法の提案に対しても評価をしました。
他の建築関連ユニットと同様に本ユニットの応募にも、昨年に引き続きリノベーション関連が多く見受けられました。どの取り組みも、環境負荷軽減や歴史性などへの配慮の点では敬意を払うべきものでしたが、リノベーションという手法そのものが市民権を得つつある近年においては、リノベーションを採用した事実だけではグッドデザイン賞を贈賞することは難しいという判断に至りました。例えば構造補強の有り様や、法規制に対する戦略、街並みやコミュニティをとらえた総合的な戦略など、リノベーションを成立させるための具体的な方法に対して、評価をする時代に入りつつあるのかもしれません。